コラム

『翔んで埼玉』が悔しいほど痛快な理由──ギャグとテンポ、そして実名の威力

2021年07月01日(木)17時25分

と、ここまでを読んだところで、サシャ・バロン・コーエン主演の『ボラット』2部作を思い起こす人は少なくないはずだ。昨年10月公開の『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』は、世界の独裁者リスト入りを切望するカザフスタンの大統領から使命を受けたボラットが渡米し、ペンス副大統領の集会に突撃したり、ジュリアーニ元ニューヨーク市長にハニートラップを仕掛けるというストーリーだ。

もちろんペンスもジュリアーニも本人。実際の共和党支持者やQアノンの集会にボラットは乗り込んで人々を挑発する。実名どころではない。基本はモキュメンタリーだが毒と批判が半端じゃない。

『翔んで埼玉』は『ボラット』の日本版。ただしレベルは全く違う。固有名詞は県だけ。ファンタジーですよ、という逃げ場をちゃんと用意している。それなのにこれほどに痛快であることが悲しい。

magmori210701_saitama2.jpg『翔んで埼玉』(2019年) 
監督/武内英樹
出演/二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム

<本誌2021年7月6日号>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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