コラム

技能実習制度「廃止」の言葉を疑う

2023年04月19日(水)17時45分

それにもかかわらず、制度の廃止を打ち出した今回の文書にはなぜかしぶとく「育成」が残った。違和感を持たないだろうか。

(1)人材の「確保」に目的を変更した新制度に置き換えるのでもなく、(2)人材の「確保」を目的に最近作られたばかりの特定技能制度に一本化するのでもなく、(3)人材の「確保」と「育成」を目的とする新制度を作ってそこに置き換えようとする。

政府はなぜそこまで「育成」に固執するのだろうか。

そのヒントは、転籍(転職)について触れた次の箇所にあるかもしれない。

「新たな制度においては、人材育成そのものを制度趣旨とすることに由来する転籍制限は残しつつ(略)従来よりも転籍制限を緩和する方向で検討すべきである」。つまり、「転籍制限の緩和」を制限する論理として「育成」が持ち出されているのだ。

ここには外国人に上から目線で「育成してあげる」と言いながら、その同じ言葉で自由を奪ってきた技能実習の欺瞞的なあり方が残響してはいないだろうか。

新制度への移行は本当に「廃止」の名に値するのか、まだまだ注視が必要だ。

<4月25日号掲載>

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パウエルFRB議長は「予想よりタカ派的」=次期議長

ワールド

米中首脳が釜山で会談、関税など協議 トランプ氏「大

ワールド

政策金利の現状維持、賛成多数で決定 高田・田村委員

ビジネス

JAL、発行済み株式の1.8%・200億円を上限に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story