コラム

EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?

2024年05月29日(水)10時14分

中国のEV市場を見るとテスラや蔚来(NIO)のような高級車から上汽通用五菱(SGMW)のように街乗りに特化した低価格品まで千差万別であり、メーカー数も50社ぐらい存在する。市場に対するアプローチはメーカーによって多様であり、比亜迪(BYD)のように幅広い製品ラインアップを揃えて生産能力を一気に拡大してシェアを取りに行くメーカーもあれば、高級車を限られた数だけ作って高く売って儲けようとするメーカーもある。

こうしたEV産業において、一部のメーカーを指して生産能力過剰の元凶だと批判することは、競争力のあるメーカーを抑えつけてしまうリスクがある。イエレン財務長官が4月に行ったことはまさにこれである。イエレンは中国のEVや太陽電池の生産能力が過剰だと非難した。中国のEV産業と太陽電池産業が全体として生産能力過剰であることは本稿冒頭に述べた通りであるが、果たして中国だけが過剰なのだろうか?

■「過剰」なのは誰か?

イエレンが中国から戻って2週間後、テスラが14万人の従業員の10%以上を削減する計画があることが明らかになった。つまり、テスラも生産能力が過剰なのである。また、EVはガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車と競合する。中国やヨーロッパではEVがガソリンエンジン車の市場を食っている。日本では欧米や中国に比べてEVの普及が遅れており、2023年の新車販売台数478万台のうちEVは全体の3%にあたる14万台にとどまったが、もし「2050年に排出実質ゼロ」という国際公約を本気で達成するつもりならば、2050年より5年ぐらい前にはガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車の新車販売はゼロになるはずである。ということは、EV工場よりもむしろ旧来の自動車工場およびその部品工場が生産能力過剰になる。

実際、日産は中国での自動車生産能力を最大で3割削減することを明らかにした(『日本経済新聞』2024年3月13日)。ホンダも2割削減するという。つまり、中国でのEVシフトについて行けない日本メーカーが過剰生産能力を抱えているのだ。中国市場で劣勢に陥った日本の自動車メーカーは、まだ優位にある北米や東南アジアに注力するというが、そうは問屋が卸すまい。

例えばタイの自動車市場では、日本車が長らく9割のシェアを維持していたが、2023年は78%にシェアを落とした。BYDや長城汽車(GWM)などの中国勢が台頭し、シェアを11%に伸ばしたからだ。タイでは日本よりもEVシフトが急ピッチで進んでおり、2023年の乗用車の新車販売のうち18%がEVで、その8割が中国ブランド車だった(『経済参考報』2024年3月22日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法省、FRBに財務状況の明確化要請 CFPB資

ワールド

メキシコ・ブラジル首脳が自制と対話呼びかけ、ベネズ

ワールド

原油先物1%超上昇、米のベネズエラ制裁対象タンカー

ワールド

欧州議会、ロシア産ガス輸入停止計画を承認 2027
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story