コラム

突然躍進したBYD

2023年05月18日(木)14時00分

BYDは1995年に電池メーカーとして創業し、携帯電話用の二次電池で発展し、やがて電子製品の組立サービス(EMS)を担うようになった。2003年に西安市の兵器工業部系の乗用車メーカーを買収することによって自動車産業に参入した。自動車産業に参入したのは、ゆくゆくは自社の電池事業と結合してEVを生産することが狙いであると考えられた。実際、BYDは2008年にプラグインハイブリッド自動車「F3DM」を発表し、将来のEV化へ向けた布石を打った。

しかし、図1に見るようにBYDの生産台数は2010年までは勢いよく拡大したものの、その後2020年までは年産40-50万台前後で停滞した。

実は、年産50万台ぐらいまでは勢いよく伸びるが、その先で行き詰るというのは中国系の自動車メーカーによくみられるパターンである。中国には新しもの好きの人々がかなりの数いるし、外資系自動車メーカーが軽視していた低価格帯というニッチをとらえれば、新興メーカーでもそれなりに成長できる。しかし、年産50万台以上に拡大しようとすると、品質管理の弱さが露呈したり、部品サプライヤーとの良好な関係を構築できなかったりしてなかなか既存の外資系メーカーの壁を越えられないのである。BYDの場合は、こうした問題に加えて、頼みとするハイブリッド車に対する需要がいっこうに増えなかったことも災いした。

だが、2016年頃から中国でのEVシフトの風が吹いてきた。EVの購入に対する補助金が出るようになったうえ、北京、上海、深圳などの大都市で乗用車の保有に対する規制が強まったこともEVシフトを後押しした。一般の乗用車のナンバープレートはなかなか発行されないのに対してEVであれば容易に取得できるし、道路の通行規制でもEVが優遇されたのである。

特にBYDの地元である深圳市が、タクシーのEV化を推進したり、充電施設の整備を進めるなどしてEVシフトに力を入れたことはBYDにとって大きな後押しとなった。図2に見るように、BYDは2017年から自社の生産に占めるEVの割合を次第に高め、2022年3月にはガソリンエンジン車の生産を完全にやめた。

marukawachart2.png

それにしても、2020年には42万台弱しか自動車を作っていなかったBYDが2年後には188万台も作るというのは、自動車産業ではきわめて異例の躍進である。

同じ倍数でも4万台から18万台という躍進はそう珍しいことではない。自動車の組立工場は一般には年産15~20万台の能力を持つことが多い。新興メーカーの名が一般に知られるようになり、工場がフル稼働するようになれば、4万台から18万台に飛躍することはありうる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story