コラム

新疆の人権状況を改善するにはどうしたらよいのか?

2021年04月20日(火)19時20分

新疆綿の追放を主張する人達はウイグル族の人権状況についてまじめに調べて考えているとは思えない。その典型例として、『ハフポスト』の中村かさね記者が書いた「ユニクロ・柳井氏がウイグル発言で失うものは何か」(中村、2021)という記事を取り上げる。

この記事は、ユニクロの柳井正会長兼社長が記者会見の場で新疆の綿花を使用しているのかと問われたのに対して「ノーコメント」と答えたことを批判し、そのように答えることは中国での目先の利益のために強制労働を追認するものだと指弾する。この記事は、新疆で強制労働が行われていることは国際的な定説となっているとして、その典拠としてオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)のレポート「売られるウイグル族」(Xu, 2020)を挙げる。

ところが、引用されているASPIのレポートには新疆の綿花農業における強制労働のことなど一言も書かれていないのである。そもそもこれは「新疆における強制労働」の話でさえない。このレポートは、ナイキの運動靴の受託生産を行っている青島の韓国系の靴工場や安徽省、江西省の工場の事例を挙げ、これらに新疆から多数のウイグル族の女性たちが来て働いていることを中国側の報道に基づいて示し、それが強制労働であると主張している。

新疆綿への言及なし

つまり、ASPIのレポートはウイグル族の人々が中国の他の地域に送られてそこで労働を強制されていると主張しているのである。新疆綿の使用が問題だと主張する論拠としてこのレポートを挙げるのは筋違いである。

ユニクロを批判する記事のなかでASPIのレポートが唐突に出てきたのは、おそらくその中でユニクロの名前が出てくるからであろう。レポートの末尾にウイグル族の労働者を受け入れている企業のリストがあり、そのうち青島のアパレル工場と寧波の繊維メーカーの取引先のなかにユニクロの名前がある。繰り返して言うが綿花の話ではない。

だが、この2社については、ユニクロ(ファーストリテイリング)はすでに昨年8月の段階でこれらとの取引がないことを確認して発表している。つまりユニクロはASPIのレポートで提起された疑念にすでに回答しており、このレポートはもはやユニクロ批判の材料にはならないのである。

さて、ASPIが主張する、ウイグル族が内地の工場に送られて強制労働させられているという説についてであるが、この話は綿花畑での出稼ぎの話と似ている。中国の内陸部の農村では貧困から脱却するために農民たちが沿海部の工場やサービス産業に出稼ぎすることが多いが、新疆のウイグル族の人々は生活習慣や宗教や言語の違いのため、沿海部の工場に出稼ぎに行くことは少なかった。そこで、沿海部の地方政府と新疆の県などが連携し、数十人のグループで沿海部の工場での出稼ぎに送り出すということがかなり以前から行われてきた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、イラン攻撃の即時停止要請 米・イスラエルに懸

ワールド

再送-米軍トップと国防長官、トランプ氏私邸からイラ

ワールド

〔情報BOX〕米・イスラエルがイラン攻撃、国際社会

ワールド

高市首相、経済的な影響の洗い出し指示 イラン情勢で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 2
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍事工場を攻撃...「着弾の瞬間」を捉えた衝撃映像を公開
  • 3
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKIが語った創作と人生の覚悟
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    がん治療の限界を突破する「細菌兵器」は、がんを「…
  • 6
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 7
    トランプがイランを攻撃する日
  • 8
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 7
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 8
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story