コラム

新型肺炎、中国経済へのダメージをビッグデータで読み解く

2020年02月27日(木)16時25分

2月25日に『経済観察報』のウェブサイトに発表された万博新経済研究院の滕泰院長らのレポートによると、第1四半期(1~3月)の経済成長率は1.2%程度、2020年全体では5.4%になるだろうと予測している。新型コロナウイルスの流行が起きる前の予測では、2020年の成長率はおおかた5.8%~6%程度とされていたので、新型コロナウイルスの影響は年間を通しても一定のダメージを残すとみられている。

肺炎の流行による中国経済のダメージがどの程度のものか、中国のネット検索大手・百度が提供しているビッグデータを使って検討してみよう。

そのビッグデータとは人々の移動状況に関するものである。一つは地域をまたいだ人々の移動に関するもので、それによると、1月25日の旧正月の元旦を前にして、北京、上海、深圳などの大都市から大勢の人間が帰省のため流出した。例年は元旦から6日目から8日目(今年の場合は1月30日~2月1日)あたりに大都市に人が大挙して戻ってくるのだが、今年は例年の数分の1しか戻ってきていない。これでは操業を再開できない工場や店を開けない商店・レストランが数多くでてくるだろう。

市内の人の移動はようやく前年の6割

さらに面白いのが、都市のなかで人々がどれぐらい移動しているかのデータである。一日の人々の移動状況を、その都市の人口に対する比率で表している。図では広州市の市内における人々の移動状況を示した。

marukawagraph1.jpg

これをみると、2020年1月24日まで広州の人々は普通に生活しており、2019年を上回る活発さで動き回っていた。1月後半にだんだん移動が不活発になっていったのは旧正月の休暇が始まったからで、これも例年通りだった。

ところが、例年なら1週間ほどの休みを経て人々の動きが再び活発化するところ、今年は2月9日までずっと不活発である。広州市では公式には2月10日に旧正月の休みが明けて仕事が再開されたはずだが、人々の市内移動は2月10日以降も例年に比べて大幅に少ない。週を追うごとにだんだん人々の動きが戻ってきているが、2月24日の時点でも昨年の6割程度までしか人々の移動が戻っていない。

次に新型コロナウイルス肺炎の流行がもっとも深刻な武漢市の状況も見てみよう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story