コラム

新型肺炎、中国経済へのダメージをビッグデータで読み解く

2020年02月27日(木)16時25分

新型コロナウイルスの感染拡大で静まり返る上海(2020年2月10日) REUTERS/Aly Song

<第1四半期はマイナス成長、その後はV字回復するが、通年でも一定のダメージは避けられない>

昨年末に中国・武漢で発見された新型コロナウイルスによる肺炎には2月25日までに中国全土で7万8064人が罹患し、2715人が亡くなった。これは2002年から2003年にかけて中国を中心に世界で8000人余りが感染し、774人が亡くなった重症急性呼吸器症候群(SARS)をはるかに上回る惨状である。

致死率が10%だったSARSに比べ、新型コロナウイルスによる肺炎の致死率は3.5%程度と低いが、感染から発症までの潜伏期間が長く、発症しないうちに他の人に感染してしまうという厄介な特徴がある。2003年のSARSの時に比べると、今回の中国政府の対応はかなり迅速だったのだが、それでも新型コロナウイルスの強力な感染力に追いつくことができなかった。

中国では1月27日から2月18日までは毎日数千人も患者が増え続けていたが、それ以降は一日数百人程度にまで減ってきており、さしものウイルスも勢いが衰えてきた。1日あたりの患者の増加数より、治る人の数が大幅に上回っており、患者数は2月17日をピークに減少している。それでも中国の経済活動が完全に元通りになるのは早くとも4月になるだろう。

新型コロナウイルス肺炎の流行は中国経済に大きな傷跡を残した。人々が家にこもっているため、交通運輸業、外食産業、旅館・ホテル業、不動産業などは大きな打撃を受けている。武漢市の封鎖が実施されたのは1月23日で、ちょうど旧正月の休暇の始まりと重なった(旧暦の元旦は1月25日)。例年であればその後1週間程度の冬休みを経て工場などが再開されるが、今年は新型肺炎のせいで多くの都市で冬休みが2月9日まで延長し、それが終わった後も正常な生産に戻らないままの工場が多い。つまり、経済の需要と供給の双方でかなりのマイナスになっている。

住宅や自動車への需要は戻ってくる

ただ、4月または5月に新型コロナウイルスの抑え込みに成功すれば、そのあと経済はV字回復するだろう。もともと住宅や自動車など大きな買い物をする予定だった人たちは、世の中が平常に戻れば延期していた買い物を再開するはずである。そのため、2020年下半期には、上半期に延期した需要が戻ってくる可能性がある。中国がSARSに襲われた2003年も3カ月間ぐらいは経済が落ち込んだが、その後はV字回復し、1年を通してみれば前年を上回る10%のGDP成長率を記録した。

だが、交通運輸、外食、旅館・ホテルといったサービスは、病気が蔓延している間に我慢した消費は、病気の流行が終わってからも完全には回復されないであろう。中国経済は2003年時点よりもかなりサービス産業の比率が高まっているので、肺炎流行からうまく回復できたとしても、2003年ほどのV字回復とはいかないかもしれない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story