コラム

泥沼化する米中貿易戦争とファーウェイ「村八分」指令

2019年06月24日(月)17時00分

例えば、スマホ用ICの大手メーカー、米クアルコム社の場合、2018年の会社の売上の67%がファーウェイ、ZTEをはじめとする中国(香港含む)向けの出荷によるものであった。クアルコムは特許の国際申請数で常にアメリカ企業のトップを走るアメリカを代表するハイテク企業である。今回の措置によってファーウェイへの販売ができなくなればクアルコムにとってかなりの打撃であるに違いない。実際、同社の株価はこの発表があってから86ドルから66ドルに急落した。つまり、トランプ政権がファーウェイに向けて撃った砲弾の破片が、アメリカの宝とでもいうべき企業にまでケガを負わせたのである。

もちろんファーウェイ自身にとっても困ったことであるのは言うまでもない。スマホ用ICについていえば、子会社の海思(ハイシリコン)で4G用のKirinシリーズや5G用のBalongシリーズなどを生産しているので、クアルコムからのIC供給が止まってもただちにスマホの生産が止まるようなことはないだろう。

半導体もOSも代替進む?

厄介なのはそのスマホ用ICの中に入っている英アーム社のCPUコアをどうするかである。BBCや日本経済新聞の報道によれば、アームのCPUコアはもともとアメリカ企業を買収して得た知的財産が含まれているため、今回のアメリカ政府の措置を受けてアームはファーウェイとの取引を暫時停止しているようである。中国での報道(『新京報』2019年5月24日)によれば、ファーウェイはアームの現行バージョンのCPUコアについてはすでに永久ライセンスを獲得しているので、それを組み込んだICの生産をやめる必要はないだろうが、将来アームがバージョンアップしたときに、まだファーウェイが禁輸の対象であるとすれば、アームの最新のCPUコアを使うことができなくなる。

もっとも、これまでクアルコムやサムスンなどがCPUコアをアームに依存する状況を打破するために自らCPUコアを開発したこともあるので、今後アームとの取引ができなくなればファーウェイが自分で開発していく可能性はある。

同様の問題がスマホのOSについてもある。これまでファーウェイなど中国の主要なスマホメーカーはグーグルのアンドロイドをOSに使ってきた。ファーウェイに対する禁輸措置により、グーグルとの関係も断たれる可能性がある。アンドロイドはもともとオープンなOSなので、それで直ちにスマホの生産をやめなければならないということにはならない。加えて、ファーウェイはすでにこのような状態を見通して「鴻蒙」というアンドロイドと互換性のある独自のOSを開発し、2019年秋にも完成する見通しだという。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story