コラム

泥沼化する米中貿易戦争とファーウェイ「村八分」指令

2019年06月24日(月)17時00分

ただ、問題はやはり今後のアンドロイドのバージョンアップにどう対応していくかである。アンドロイドに対応して多数のアプリケーションが作られているが、今後アンドロイドがバージョンアップし、アプリもそれに合わせてバージョンアップしたとき、それらが「鴻蒙」の上でも動作するように互換性を保っていくのは難しくなる(『21世紀経済報道』2019年5月27日)。かといって、「鴻蒙」上で動作するアプリをこれから揃えていくのも大変である。

以上のように、クアルコムのIC、グーグルのアンドロイド、アームのCPUコアが断たれても、ファーウェイにはそれらを代替する手段がすでに準備されているので、スマホの生産を停止するような事態には陥らないだろう。ただ、ファーウェイがこうした代替手段のことを「Bプラン」と呼んでいることから伺えるように、それはやはり不本意な代替であって、ファーウェイ製品の競争力をある程度削ぐ可能性が高い。

6月17日にファーウェイの任正非CEOはアメリカのMITメディア・ラボの創設者ニコラス・ネグロポンテ氏と投資家・作家のジョージ・ギルダー氏との座談会で、2019年は1300億ドルと見込んでいた売上が昨年並みの1000億ドルにとどまり、来年もそれぐらいだろうとの見通しを示した。

ジレンマに悩む日本企業

トランプのファーウェイ「村八分」指令は日本企業など第三国の企業にもとばっちりが及びかねない。ファーウェイは2018年に日本から7000億円の部品を調達しており、ソニー、東芝メモリ、村田製作所などもファーウェイにスマホ部品を売っているといわれる。その部品のなかにアメリカ企業から購入した材料などが使われている場合に、今後はアメリカによる制裁におびえなければならなくなる。

そうした日本企業のジレンマを象徴するような出来事が5月23日にあった。その日の『日本経済新聞』朝刊などで、パナソニックがアメリカ産の材料等を使った製品をファーウェイに輸出するのを停止した、と報じられた。すると同日の午後にパナソニック中国のホームページにこの報道を否定する声明が掲載された。その声明によれば「パナソニック・グループのファーウェイに対する製品供給は正常に続いており、メディアで流れている『供給停止』というのは事実ではない。ファーウェイはずっとパナソニックにとって重要な協力パートナーである」とのことである。パナソニックがアメリカの制裁の影とファーウェイとの取引維持との間で股裂き状態になっていることをうかがわせる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英シェル株主は気候対策強化案に反対を、グラスルイス

ワールド

中国主席、5年ぶり訪欧開始 中仏関係「国際社会のモ

ワールド

ガザ休戦交渉難航、ハマス代表団がカイロ離れる 7日

ワールド

米、イスラエルへ弾薬供与停止 戦闘開始後初=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story