コラム

経済統計を発表できない大連の不況

2017年06月12日(月)15時33分

こんな状態をみると、中国の統計なんて粉飾だらけでまったく使い物にならないと思う人も多いだろう。だが、GDP成長率のように一番目立つ数字ではなく、統計のもっと細かいところを見たり、公表されている数字を使って簡単な計算をするだけで、深刻な実態が透けて見えることもあるのである。

2016年に発行された『大連統計年鑑』を見ると、大連市の2015年の鉱工業全体の成長率はマイナス0.1%だったとされているが、鉱工業生産額は実質でマイナス31%という大きな落ち込みが記録されている。この数字は他の数字と照らし合わせても整合的であり、そのどれもが大連市の鉱工業が2014年にはマイナス7%、2015年にはマイナス30%以上と大きく落ち込んだことを示している。

2015年の鉱工業生産の落ち込みに大きく寄与しているのはどの産業かを見てみると、第一が、生産額が47%も減った一般機械製造業、続いて生産額がマイナス35%だった化学産業、マイナス32%だった石油化学産業、マイナス38%だった農産品加工業などが下落に最も寄与した。また、ソフトウェア・ITサービス業も2015年には実質でマイナス31%となっている。

粉飾は止められるか

こうした大連市の鉱工業やソフトウェア・ITサービス業における対前年比3割前後という落ち込みは明らかに鉱工業全体の成長率のマイナス0.1%とか、市全体のGDP成長率4.2%とは矛盾する。この統計を作った大連市統計局の人たちの気持ちを忖度すると、統計家の良心としてやはり大連市の産業が深刻な状態にあることをどこかで報告しておきたいが、かといって大連市のGDPという目立つ数字に反映させるならば、遼寧省内の他の市に比べて突出して低く出てしまう。それでは市長らの面目をつぶすことになるので、表面的な数字だけ粉飾することにしたのではないだろうか。

ともあれ現時点で言えることは、大連市の経済が2014年以降かなり深刻な縮小に見舞われているということである。2017年初めまでは目立つ数字を取り繕ってきたが、遼寧省政府が過去の水増し分を抜く決断をしたことで、大連市も現在修正を余儀なくされている。

果たして大連市や遼寧省が過去の粉飾をきれいに洗い流し、実態に即したデータを公表することで、統計に対する信頼を取り戻せるのだろうか。結局、再び粉飾を施したデータが出てきたり、修正が行われず、うやむやなまま次年度を迎える可能性もある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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