コラム

経済統計を発表できない大連の不況

2017年06月12日(月)15時33分

公式統計によると大連市経済は1992年から2012年まで実に21年連続で二桁成長を記録するなど猛然と成長してきたが、2014年から急減速している。2014年のGDP成長率は5.8%、2015年は4.2%と、全国平均をだいぶ下回っている。2015年は鉱工業がマイナス成長になってしまった。

最も気になるのは、現時点に至るまで2016年のGDP成長率が大連市政府・市統計局のウェブサイトで公表されていないことである。毎年2月末から3月初めにかけて、全国および各地方で前年の経済実績を「統計公報」として公表する、というのは中国の中央および地方の政府がずっと守ってきたルールである。大連市もずっとそのようにやってきた。

ところが、このルールで行くと2017年3月には2016年の経済実績に関する統計公報が出るべきなのに、現時点(2017年6月12日)でも公表されていないのである。いったい何が起きているのだろうか。

ネット上でのさまざまな情報を総合した結果、私は次のようなことだと推測している。

まず、2017年2月に全国や地方で昨年の成長率の速報値が出た。その時に大連市も、2016年のGDPは8150億元で、前年に比べて実質6.5%の成長だったと速報したようだ。2015年のGDPは7732億元だったので、前年の数字とも辻褄が合っている。

速報値は省の数字と矛盾

ところが、同じ頃、遼寧省政府が2016年はGDP成長率が実質ではマイナス2.5%、名目ではマイナス23%と発表したことで、大連市当局は面目を失ってしまうことになった。以前に本欄で論じたように、遼寧省の統計局は今年になってこれまでのGDPの水増しを解消し、より真実に近い数字を発表する決意をしたようである。だが、遼寧省全体はマイナス2.5%なのに、遼寧省経済の3割を占める大連市がプラス6.5%では、大連市の数字が嘘臭く見えてしまう(もちろん、大連市以外の遼寧省が大幅なマイナス成長であればこの二つの数字が両立することはありうるのだが。)

【参考記事】遼寧省(の統計)に何が起きているのか?

そこで大連市は速報値を慌てて撤回し、水増し分を抜いた2016年のGDPを計算し直したが、他の数字との矛盾を直すのに手間取って公表できなくなってしまったのではないか。ネットで漏れ伝わってくる再計算後の2016年のGDPは5924億元だという。つまり速報値ではGDPが4割近くも水増しされていたのである。もっとも、GDPの実額が水増しされていようがいまいが、景気がよいのか悪いのか判断する上で大事なのは実質成長率だから、それさえきちんと計算して発表してくれればいいのだが、統計公報はいろいろな数字をいっぺんに発表するために、相互に矛盾のないように数字を調整するのに時間がかかっているのではないか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中独首脳会談、習氏「戦略的観点で関係発展を」 相互

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 7

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story