コラム

経済統計を発表できない大連の不況

2017年06月12日(月)15時33分

大連の海水浴場。不況とは思えない賑わい(2016年8月)

<回復基調にある中国経済のなかで、一人沈んでいるのが遼寧省の大連。遼寧省が正直な経済統計を発表したせいで、それまで大連が描いていた架空の成長シナリオは崩れた。さてその実態は?>

中国経済全体は、現在回復基調にある。2017年第1四半期(1~3月)のGDP成長率は6.9%だった。本当にこんなに高いのかという疑問は依然つきまとってはいるけれど、変化の方向、つまり6.7%だった2016年に比べて上向いているということはかなり信じられる。2015年以降、成長率の数字が景気の変化の方向を見るうえでも怪しくなっていただけに、経済だけでなく経済統計の質も回復基調にあるようである。

そうしたなか一人沈んでいるのが遼寧省である。2016年の経済成長率はマイナス2.5%と、中国の地方としては異例のマイナス成長だった。2017年第1四半期もプラス2.4%で、全国のなかでダントツの最下位だった。

【参考記事】アリババ帝国は中国をどう変えるのか?

その遼寧省の経済を牽引してきた大連市に先週行ってきた。大連市は遼寧省のGDPの3割前後を占めている。

私が行った期間がちょうど中国の子供の日(6月1日)を挟んでいたため、海岸の海洋レジャー施設には大勢の客がつめかけ、駐車待ちの車が列をなしていて、不況に沈んでいる感じはしなかった。地下鉄は3路線開通し、前回大連に来た2014年よりも車がさらに増え、案内してくれた東北財経大学の先生の車もトヨタからベンツに代わった。星海湾のヨットハーバーのかなたに見える湾を跨ぐ全長6キロの星海湾大橋(下の写真)は前回来た時にはなかった。

marukawa170612.JPG

はじけた不動産バブル

だが、大連市のなかの一つの区である旅順(旅順口区)に行くと、経済の沈滞の様子をそこかしこに感じた。幹線道路沿いにはリゾートマンション付きのゴルフ場が作られていたが、途中で資金がショートしたらしく、マンションが建設半ばで放置されていた。旅順には多くの住宅が建設されたが余り売れていないという。旅順から大連市中心部へは30㎞ぐらいの距離なので、ベッドタウンとして発展できるようにも思ったが、旅順と大連市中心部を結ぶ鉄道の便数が少ないため、市内に通うには不便だという。

旅順と大連を結ぶ道路沿いにはいくつも別荘地が開発されている。なかには「普羅旺斯(プロヴァンス)」なんてすてきな名前のついた別荘地もある。富裕層の消費力を当てにしたバブリーな住宅や施設ばかりが盛んに作られた挙げ句、売れなくて不良債権化するという展開は日本のバブルを再現しているようだ。

【参考記事】自転車シェアリング--放置か、法治か?

大連には石油化学、機械、造船など重工業の大企業が数多い。同時に日本企業の進出も盛んだし、主に日本向けのソフトウェア開発やビジネスアウトソーシングといったビジネスも盛んである。こんなに多様な産業を持っている都市などなかなかないから、どこかに活路が見いだせそうな気もするがそうでもないようである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story