コラム

トランプ大統領誕生は中国にとって吉と出るか凶と出るか

2016年11月21日(月)17時00分

 中国からの輸入に45%の関税を課すというトランプ氏の方針に対しては、すぐにでもとれる対策がいろいろあります。中国からの輸入といってもアップル社のスマホやウォルマートで売られる日用品のように、アメリカ企業が深く関与しており、関税はそうしたアメリカ企業の利益を害するでしょう。しかし、トランプ氏は選挙中に海外の工場から製品を輸入するアメリカ企業を制裁すると叫びましたから、自国企業の利益など顧みない恐れもあります。そこで、輸入側のアメリカ企業と輸出側の生産者とは、アメリカでの雇用を増やす対策をとり、なんとか課税を回避しようとするでしょう。まずはアメリカに工場(に見えるもの)を建て、製品の箱詰めをそこで行ったり、スマホのようなIT製品であればソフトのインストールを行うということが考えられます。中国から製品を輸入していると言ったって、実は製品の流通や開発に関わる雇用がアメリカに生み出されているので、中国がアメリカの雇用を奪っているというのは誤解なのですが、製造業の雇用をアメリカである程度増やせばトランプ政権は満足して45%関税構想を引っ込めるのではないでしょうか。

NAFTA破棄に備えよ

 一方、トランプ氏が選挙中に言っていたNAFTA(北米自由貿易協定)の破棄は十分ありうるものとして対策を打っておいた方がいいでしょう。トランプ氏はメキシコとの国境に壁を築くと言い放ちましたから、新政権発足後、メキシコとの関係が悪化し、NAFTA破棄に突き進む可能性があります。アメリカとメキシコの国境沿いのマキラドーラ(保税輸出加工区)に生産拠点を構えている企業はNAFTAの破棄や見直しに備えておいた方がよいと思います。

 トランプ・タワーでトランプ氏を訪ねた安倍首相は本間ゴルフの黄金のクラブを贈ったそうです。実は本間ゴルフは2005年に民事再生法の適用を申請したのち、2010年から中国企業の子会社になって蘇りました。安倍首相やその周辺がその事実を意識していたかどうかはわかりませんが、保護主義に走れば自国のメリットにならないことを暗に勧告したとも読み取れる真に素晴らしい贈り物だったと思います。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story