コラム

トランプ大統領誕生は中国にとって吉と出るか凶と出るか

2016年11月21日(月)17時00分

大ヒットしたトランプマスクも中国製 ALY SONG-REUTERS

<トランプ次期米大統領はアメリカ人の仕事を奪う中国製品に45%の関税をかけるという対中強硬論者だが、中国強硬派のなかにはトランプ政権誕生を歓迎する声も意外と多い。トランプも中国強硬派も、自分たちの間違いに気づいていない。そこに警鐘を鳴らしたのが、安倍首相からトランプへのプレゼントだ>

 トランプ氏が米大統領選に勝ちそうだとの第一報を私は飛行機の中でキャビンアテンダントから聞いたのですが、その瞬間に顔がこわばるのを感じました。あんな粗雑な頭の持ち主に世界最強の国のかじ取りを任せてしまったらいったい世界はどうなるのだろうか、子供たちに平和な世界を残せるのだろうか、と大きな不安に駆られました。安全保障でアメリカに大きく依存する日本にとって、自国第一主義を唱える新大統領の誕生は大きな不確実性の到来を意味します。安倍首相が真っ先にニューヨークに飛んで行って新大統領との融和を図ったのも当然といえましょう。

 中国にとっても、中国からの輸入に一律45%の関税を課すと叫ぶ新大統領の誕生がいいニュースであるはずがありません。冷静に考えれば、WTOのルールから言ってそんなことはできないことはわかるのですが、中国との貿易戦争を辞さずとうそぶく人物が大統領になった以上、少なくともアンチダンピングやセーフガードなどWTOで許容された手段を駆使した中国叩きが始まることは覚悟しなければならないでしょう。

アメリカが内向きになれば好都合

 ところが、中国では主に対外強硬派と目される人々からトランプ大統領の誕生を歓迎する声さえあります。例えば政治評論家の李世黙がいうには、これまでオバマ政権は価値観外交を展開し、東アジアへの転回(pivot)とかリバランスとか言って中国を押さえ込もうとしてきたが、トランプ政権のもとでアメリカが内向きになるのは中国にとって好都合だと言います。彼は「中国が周辺地域で影響力を拡大しようとすることは自然なこと」であり、トランプ政権がそれを邪魔しないでくれるのは有難いと言います。日本にとっては有難くない話です。

 強硬な言論で知られる『環球時報』の社説も、トランプ新大統領は国内の経済問題に精力を傾け、中国との角逐に注意を振り向ける余裕はないだろう、と楽観的です。新政権が発足した当初こそは、トランプ新大統領は選挙の際に示した対外強硬姿勢がダテではないことを示そうと中国に対して攻撃的に臨むかもしれないが、中国はアメリカの新大統領を「飼い馴らす」ことに長けているから、初期の摩擦を乗り越えれば、その後の関係は安定するだろうと言います。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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