コラム

トランプ大統領誕生は中国にとって吉と出るか凶と出るか

2016年11月21日(月)17時00分

 中国が南シナ海への進出など対外的な影響力の拡張を目指すうえでアメリカが内向き指向になることは好都合だ、と中国の強硬派は考えているようです。しかし、当然ながら世界は中国とアメリカだけで成り立っているわけではありません。中国が海洋進出を強めようとすれば、日本、ベトナム、フィリピン、台湾などの利害に抵触する可能性が高いので抵抗に遭うのは必至です。日中関係についていえば、アメリカが日本の軍事的な後ろ盾となってきたのは確かだけれど、同時にアメリカは首相の靖国参拝のような日本側の挑発的な行動に対して不快感を表明するなど、仲裁者的な役割を演じることもあったわけです。これまでアジアの国際関係において重石のような役割を果たしてきたアメリカが外れてしまうと、中国が自国利益の拡大へ走るだけでなく、他の国々もそれぞれの利益と主張を掲げて行動し、事態が予測のつかない方向へ発展していく恐れがあります。

 特に北朝鮮が中国にとってますます厄介な存在になるかもしれません。トランプ氏は選挙期間中に金正恩と会う用意があると言いました。北朝鮮はアメリカとの直談判によって体制維持への保証を得ることを望んでいるので、トランプ政権の誕生に大きな期待を持っているはずです。アメリカが北朝鮮に対して強硬であれば、北朝鮮は中国にすり寄らざるをえませんが、アメリカとの直談判ができるとなると、中国の言うことをますます聞かなくなる可能性があります。

中国の影響力が増すとは限らない

 中国の強硬派が期待するような展開、すなわちトランプ新政権のもとでアメリカがアジアへの関与を弱め、中国がその分影響力を拡大する、というように事態は進まないと思います。むしろ、中国がアジアで独善的に振る舞えば他のアジア諸国からの反発が強まり、影響力の増大よりも低下を招くでしょう。それでも中国のなかで強硬派の意見が強まって独善的な行動に出る可能性は否定できません。そうならないようにアジアの平和と安定を維持することが中国を含めたアジア全体にとって最善なのだという共通認識を高める努力を重ねる必要があるでしょう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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