コラム

「東アジア共同体」を夢想する

2016年09月01日(木)17時00分

 中国のなかでも北京、上海、天津の3直轄市は一人あたりGDPがすでに1万7000ドル前後ですし、江蘇省も1万4000ドルで、これらはすでに世界銀行の「高所得国」の水準にあります。この4か「国」の人口は合わせて1億4000万人を超えています。さらに人口5500万人の浙江省、人口1億人の広東省も「高所得国」入りは間近いと思います。

 中国を30以上の地域にばらしたときに、東アジアがどう見えるかを図にしてみました。この図のなかの箱は一つの国や地域を表し、その高さはその一人あたりGDPを、幅はその人口を表します。従って、箱の面積は各国・地域のGDPを表します。

marukawachart160901.jpg
 
 一番右端に線のように見えるのはシンガポール、香港、ブルネイです。一人あたりGDPは高いものの、人口が少ないので、仮に東アジア共同体のなかで人口比によって議席が割り振られるとすれば小さな発言権しか得られないでしょう。

ナショナリズムを超えて

 この図を見ると、高い所得と比較的大きな人口をもった日本は、箱の面積(GDP)で言えば東アジアのなかでかなり突出した存在のように見えます。しかし、仮に中国の江蘇省、浙江省、広東省あたりが一人あたりGDPで2万ドルぐらいまで伸びてくると、東アジアの様相もかなり変わってきます。ヨーロッパのように粒の大きさが近い高所得「国」が4つも5つもできてきます。日本にとっては高所得「国」の仲間が増えるので、高所得国に不利な決定が行われる可能性が相対的に小さくなります。広東省までが高所得「国」になるのはいつかと言えば、私はそう遠くない未来、すなわち2020年を過ぎるころには到達している可能性が高いと思います。

 中国がバラバラになって東アジア共同体に加盟するというこのアイデアがいまの中国で受け入れられる可能性については残念ながら悲観的にならざるを得ません。国家統合をかえって強めているような中国の現状では、仮に夢想としてであれ、こんなことを口にすることさえ憚られる状況です。

 しかしそれでも、いつか東アジアがナショナリズムの悪循環を乗り越え、国境を越えた連帯で結ばれる日が来ることを願わずにはいられません。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GDP10─12月期は2四半期ぶりプラス、物価高で

ワールド

インタビュー:消費減税財源、外為特会「一つの候補」

ビジネス

EU衛星プロジェクト、価格と性能に競争力必要=ユー

ワールド

外国人旅行者のSNS審査案、上院議員がトランプ政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story