コラム

シャープのV字回復は本物か? IoT企業への変革は成功するか?

2017年05月16日(火)16時34分

3番目に指摘したいのは、シャープのビジネスモデルについてである。

同社が決算結果とともに発表した「新生シャープの方向性」のなかでは、バリューチェーンを表す「ビジネスモデル」について、これまでの「商品企画・技術開発・生産・販売」から、「事業企画・技術開発・スマートファクトリー・販売・ソリューション&サービス」に変革していくことが明記されている。

確かに最近のシャープの商品を見ると、単なる「商品開発」ではなく「事業企画」という視座から生まれたと感じさせる商品も少なくない。

もっとも、IoTのプラットフォームを実現しつつあるメガテック企業では、消費者の経験価値から志向し、組織における事業を横断的にとらえてソリューションを提供しようという姿勢を感じさせることが多い。シャープが新たな「ビジネスモデル」を表現するのに使っている「事業企画」という言葉自体に違和感を覚えるのは筆者だけではないだろう。

最後に、シャープを傘下におさめている台湾のホンハイは、2016年度の決算において、創業43年間で初めて業績が前年割れとなった。数々のサクセスストーリーを積み重ねてきたホンハイでも、約16兆円にも上る売上高を継続して高めていくのはもはや容易ではない段階に差し掛かっており、同社にとってシャープは成長戦略の中核なのである。

このようななかで、さらにはシャープの経営不振の主因となった液晶事業自体に回復の道筋がまだ見えないなかで、ホンハイにとっても、シャープにとっても、中国・広州で進めている約1兆円にも上る世界最大の8K液晶パネル工場の成否がまさに企業の命運を左右する戦略的投資であることは明らかである。

8Kの技術や商品は、一般のテレビのみならず、医療分野から安全監視システムに至るまで、裾野も広い成長分野として期待されている。もっとも、8Kの技術や機能価値だけで1兆円にも上る巨額当投資を回収していくのは容易ではないだろう。

シャープが自ら掲げている上記の「ビジネスモデル」のバリューチェーンのなかに「マーケティング」という重要な要素が欠けているなかで、また、ホンハイが規模の経済というゲームのルールに未だ依存しているように見えるなかで、シャープには、誰のため・何のためのIoTであるかを見失うことのないように、消費者のニーズに真に寄り添い、消費者の経験価値を高めていく努力を怠らないことを期待していきたい。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:解体される「ほぼ新品」の航空機、エンジン

ワールド

アングル:汎用半導体、供給不足で価格高騰 AI向け

ワールド

米中間選挙、生活費対策を最も重視が4割 ロイター/

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 6
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 7
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story