コラム

ディープフェイクによる「偽情報」に注意を...各国で、選挙の妨害を狙った「サイバー工作」が多発

2024年06月08日(土)19時27分

虚偽情報を含む電子書籍『蔡英文秘史』がSNSで流通

「エイズがインドを侵略するかもしれない」と題されたその手紙は、高名なアメリカの科学者が書いたことになっており、ウイルスの起源はメリーランド州にあるアメリカの化学・生物兵器研究施設であると指摘していた。30年経った今でもこの話を信じている人がいる。

この作戦は準備に数カ月を要し、ソ連系のメディアを通じて広めるのにさらに数カ月を要した。しかし今日では、AIとディープフェイクのおかげで、攻撃者は1日に何十もの工作キャンペーンを作り出すことができる。中国も同じようなパターンを踏襲しており、2021年1月に実施された台湾の総統選挙までの数週間、『蔡英文秘史』と題された300ページに及ぶ電子書籍をSNSやメールを通じて流通させている。この電子書籍には、蔡英文・前総統が性的な取引によって権力を手に入れたというスキャンダラスな虚偽情報が含まれていた。

現代の手法が革新的なのは、インスタグラム、ユーチューブ、ティックトック、その他のプラットフォーム上の動画という形で、AIが作成したプロのニュースキャスター風のアバターが、その電子書籍からスキャンダラスな暴露を読み上げるといった工作だった。本そのものが、AIによって「書かれた」可能性も十分にある。

これらの問題は、簡単に解決できるものではない。対策には、長期で面倒なプロセスが必要なだけでなく、当局側の透明性を高める必要がある。信頼できる社会を築くには、政府や自治体が信頼できる真実の情報をタイムリーに定期的に提供することが必要だ。大量に生み出されるAIの偽情報や信頼できそうなディープフェイクが出回るこれからの時代には、当局に対する信頼がなによりも大事になるだろう。

プロフィール

クマル・リテシュ

Kumar Ritesh イギリスのMI6(秘密情報部)で、サイバーインテリジェンスと対テロ部門の責任者として、サイバー戦の最前線で勤務。IBM研究所やコンサル会社PwCを経て、世界最大の鉱業会社BHPのサイバーセキュリティ最高責任者(CISO)を歴任。現在は、シンガポールに拠点を置くサイバーセキュリティ会社CYFIRMA(サイファーマ)の創設者兼CEOで、日本(東京都千代田区)、APAC(アジア太平洋)、EMEA(欧州・中東・アフリカ)、アメリカでビジネスを展開している。公共部門と民間部門の両方で深いサイバーセキュリティの専門知識をもち、日本のサイバーセキュリティ環境の強化を目標のひとつに掲げている。
twitter.com/riteshcyber

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story