コラム

犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事件の現場から浮かび上がる「2つの条件」

2025年07月08日(火)11時00分

私の四十年に及ぶ犯罪研究において、動機がはっきりと分かった事件は一つもありません。正確に言えば、トリガー(最終的な刺激要因)は分かっても、そこに至るまでに蓄積されたルサンチマン(憎悪)は解明できていません。言い換えれば、犯行の原因は無限にさかのぼることができ、一つを切り取ることは不可能なのです。

もっとも、「マスコミは動機を報道しているではないか」と思われるかもしれません。しかし、検察官や裁判官は、犯罪心理の専門家ではなく、法律の専門家です。司法機関の役割は事実の確定であって、動機の解明ではありません。そもそも、動機の解明など初めから行っていないのです。


マスコミが伝える「動機や原因」は、あくまで事件にけじめをつけるために、「とりあえず、そうしておこう」と警察や裁判所が考えたものにすぎません。

カミュの小説『異邦人』には、犯人が法廷で動機を問われ、「それは太陽のせいだ」と答える場面があります。カミュが伝えたかったのは、まさに「人の心の奥底は見えない」ということではないでしょうか。

ここで私が、長々と動機について述べてきたのには理由があります。それは、本書が動機に注目していないことを、知っていただきたかったからです。

動機が分からなくても、犯罪は防げます。「機会なければ犯罪なし」です。必要なのはこの一点です。「動機や原因」ではなく、「機会や場所」に注目してください。それだけで、皆さんの生活は格段に安全になります。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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