コラム

防犯効果を高める「ホットスポット・パトロール」とは? 日本の「ランダム・パトロール」との違い

2025年02月07日(金)11時10分

発見したそれぞれのホットスポットでは、犯罪者にプレッシャーを与えるため、しばらく滞在することが重要だ。ジョージ・メイソン大学のクリストファー・コーパー准教授はデータ分析に基づき、ホットスポットに滞留する時間は15分がベストということを発見した。15分までは滞留時間が長くなれば長くなるほど防犯効果は高まるが、その時間を超えて滞留していると防犯効果は低下する、というのだ。このメカニズムは「コーパー曲線」と呼ばれている(図表2)。

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図表2

15分とは何やら微妙な時間だが、なぜそれ以上とどまると防犯効果が下がり始めるのか。長くいればいるほど防犯効果は高くなるようにも思えるかもしれないが、おそらく次のようなことなのだろう。

ある窃盗団が待機している場所に15分間とどまったということは、次の場所(つまり、別のホットスポット)でも15分間とどまることが予想される。したがって最短なら15分で戻ってきてしまう。それでは時間が足りず、犯行を完遂できない。しかし1時間とどまった場合には、次の場所でも1時間とどまることが予想される。つまり、最短でも1時間は戻ってこない。それなら余裕で犯行を完遂できる。このような意識が働き、防犯効果に差が出るのかもしれない(図表3)。

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図表3

15分という数字がそのまま日本に当てはまるかどうかは分からない。そうした実験は日本では困難なのでデータが取れないからだ。しかし、参考になる数字であることは間違いない。個人的には、日本ではアメリカのようにホットスポットが集中していないので、15分でなくても、たとえ5分~10分でも効果が期待できると思われる。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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