コラム

日本の防犯対策はアンバランス 考慮すべきは犯行動機や出自といった「人」ではなく...

2023年05月10日(水)10時35分
忍び寄る犯罪のイメージ

Marco_Piunti-iStock

<「犯罪機会論」はあくまでコスパの観点から犯罪を防ぐ。犯人の性格や動機、出自や経歴といった面に一切興味を示さない。日本で防犯対策の主流となっている「犯罪原因論」との違いを解説する>

女性専用トイレ廃止問題がきっかけで、「犯罪機会論」に注目が集まっている。過去、これほど注目度が増したのは、2005年、わずか10日の間に広島県と栃木県で二人の女児が連れ去られ殺害されたときぐらいだ。あれから20年近くの月日が過ぎたが、「犯罪機会論」の普及は一向に進まず、日本の防犯対策はガラパゴス状態に陥っている。

筆者がケンブリッジ大学で「犯罪機会論」に出会ったのは、ちょうど30年前。当時、すでにグローバル・スタンダードになっていた「犯罪機会論」を、日本にも導入しようと張り切ってはみたものの、力不足は否めず、日本が周回遅れになるのを阻止できなかった。

そんな筆者からすると、「犯罪機会論」が話題になるのは大歓迎だ。ただ、話題になると、当然、批判も噴出する。それが、犯罪機会論を正しく理解した上でのものなら歓迎するが、中には、誤解や曲解したものもある。例えば、原則に例外で反論したり、勝手にねじ曲げて解釈したり(ストローマン)、自分に有利な事例のみで反論したり(チェリー・ピッキング)、といった具合だ。

そこで以下では、「犯罪機会論」を論理的にしっかり説明したい。

「犯罪トライアングル」に見る日本の異常性

まず、有名な「犯罪トライアングル(Crime Triangles)」を取り上げる(図表1)。シンシナティ大学のジョン・エックが考案した思考フレームだ。

komiya230509_1.jpg

筆者作成

それによると、内側の三角形は犯罪を発生させる要素を示し、①犯罪者(offender)、②被害者(target/victim)、③場所(place)という三辺から成る。

一方、外側の三角形は犯罪を抑制する要素を示し、①犯罪者の監督者(handler:親、教師、刑務官、保護司など)、②被害者の監視者(guardian、友達、同僚、近隣住民、警察官など)、③場所の管理者(manager、店主、地主、社長、首長など)という三辺で構成される。

お気づきのように、マスコミが報じるのは、「どうして起きたか」については、「①犯罪者」のことばかりで、少しだけ「②被害者」にも触れるが、「③場所」はまったくと言っていいほど取り上げない。同じように、「どうすれば防げる」についても、「①犯罪者」と「②被害者」に関することがほとんどで、「③場所」に関する記事は皆無に近い。

このアンバランスは異常だ。事件報道にはバイアスがかかっていると言われても仕方あるまい。
政府や地方自治体の政策も、まったく同じだ。犯罪対策は、「①犯罪者」と「②被害者」に集中し、「③場所」にフォーカスしたものは、まったくと言っていいほどない。

これに対し、欧米諸国の対策はバランスが取れている。「犯罪原因論」が「①犯罪者」を、「被害者学」が「②被害者」を、「犯罪機会論」が「③場所」を担当している。

日本には、犯罪学科のある大学は一つもないが、海外では、ほとんどの大学に犯罪学科が設置され、専門家を多数養成している。だからこそ、バランスよく効果的な対策が講じられる。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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