コラム

【ブレグジット】イギリスとEUが離脱案で合意 最大の難関は英議会

2019年10月18日(金)17時01分

要点は、まず、メイ前首相とEUが合意をした離脱協定の中で最大のネックとなっていた「バックストップ(安全策)」の代替策をいれたこと。このバックストップ案は、もし英国とEUとが将来の通商交渉で合意できなかった場合でも、北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドとの間に、物理的国境(ハードボーダー)を置かないようにするための枠組みだった。

修正離脱協定案の要旨は:

──北アイルランドはモノの移動についてのEUの規則に継続して準ずる
──北アイルランドは英国の関税圏に入るが、EU単一市場の「エントリー拠点」になる
──北アイルランドの政治家が今後もこの状態を維持するかどうかを4年毎に決定する

バルニエ交渉官は会見の中で、最後の点が最も重要であったと述べている。

この「決定」は、北アイルランド自治議会での多数決による。

実は、この議会は、プロテスタント系の最大政党DUPとカトリック系の最大政党シンフェイン党とがエネルギー問題を巡って対立したことをきっかけに、2017年以来、機能停止中だ。

また、多数決による決定となると、第1党のDUP(離脱強硬派)が将来を決めることになりかねない。

今後、どうなるか

筆者は(1)から(3)の文書に目を通してみた。離脱後も、英国とEUの協力関係を維持するよう最大限の努力をすると繰り返ししたためられており、教育、労働者の権利、安全保障など具体的な項目についても出来得る限り現状を維持するという。

過去の北アイルランド紛争、そしてベルファスト和平合意の流れを汲んで、アイルランドと北アイルランドとの間にハードボーダーを置かず、両地域の協力関係を継続し、具体的な作業については、部会を設置する。

協定案が離脱予定日(10月31日)までに英議会の承認を得られれば、2年間の移行期間が発生し、英国とEU側は移行期間終了後の自由貿易について、そしてそのほかの様々な事象について話し合いを開始することになる(離脱協定がない離脱となれば、移行期間は設けられない)。

英国本土への帰属を重要視するDUPにとっては、「北アイルランドは英国の関税圏に入るが、EU単一市場の『エントリー拠点』になる」箇所がひっかかる。本土とは異なる扱いは受け入れがたいと考えるからだ。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story