コラム

「野党共闘」の射程を戦略的パートナーシップ論から読み解く

2021年10月21日(木)06時00分

立憲民主党の枝野代表(中央)と共産党の志位委員長(左から2人目)の共闘の行方は(10月18日、東京の日本記者クラブ)Issei Kato/Pool-REUTERS

<総選挙で野党は全選挙区の7割に当たる213選挙区で候補者一本化を実現した。立憲民主党にとって共産党との協力が「禁断の果実」だとしても、選挙結果次第でこの野党共闘は令和政治史の分水嶺になる可能性がある>

総選挙が遂に始まった。投開票日は10月31日。衆議院解散からわずか17日間の短期決戦であり、岸田文雄政権発足(10月4日)から数えても4週間という「超速攻型」の総選挙だ。

9月に行われた自民党総裁選は広く国民的な関心を集め、岸田新総裁選出後も党役員・閣僚人事や所信表明演説が(賛否両論で)大きく報じられた。野党にとっては、総選挙直前の「壮大な事前運動」とも言うべき自民党劇場を見せつけられた形で、「鉄は熱いうちに打て」と言わんばかりに岸田首相は出来る限り早いタイミングで解散・総選挙を打った訳である。ワクチン接種の進展によって新型コロナ感染確認者数は激減しており、首相就任直後の「ご祝儀相場」も期待して総選挙に勝利する方策だったはずだ。

ところが、その速攻は野党に対する奇襲というよりはむしろ、危機感を強めた野党側の共闘を加速化させるという皮肉な状況を生み出した。立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組、国民民主党の間で候補者調整が進み、289ある小選挙区のうち実に7割にあたる213の選挙区で野党候補が一本化されたのである(そのほかに茨城1区など事実上の野党候補一本化の形になった選挙区もある)。

これにより、もともと与党支持者だが「今回はお灸を据えてやろう」という批判的投票行動が選挙結果に与える効果が増大することになった。日本維新の会やその他無所属の候補者がいる選挙区もあるが、与党候補と野党候補の実質的二者択一となる選挙区数も約130以上にのぼり、小選挙区制が持つ「オセロゲーム」性が発揮される可能性が高まっている(比例復活もあるが)。これまで安倍政権下の選挙では野党側の自壊と混乱、野党系候補の乱立によって与党側が圧勝してきたが、今回はそうした「敵失の恩恵」を享受することは難しい。

このような状況で注目されているのが「野党共闘」の位置付けである。立憲民主党と共産党、社民党、れいわ新選組を含めた4党で「市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)」による提言に署名。安保法制や共謀罪における違憲部分の廃止やLGBT平等法成立などの20項目の共通政策に合意した(国民民主党は参加せず)。共産党は立民政権が出来た場合でも連立を組むことはなく、合意した政策に限定する「閣外協力」を行うとしている。2015年9月に共産党は「国民連合政府」を提唱しているが、実際に他の政党と政権協力の合意を形成し総選挙に臨むのは1922年の設立以来、初めてのことである。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国外務省、高市首相に「悪質な」発言の撤回要求

ビジネス

訂正-三越伊勢丹HD、通期純利益予想を上方修正 過

ビジネス

シンガポール中銀、トークン化中銀証券の発行試験を来

ビジネス

英GDP、第3四半期は予想下回る前期比+0.1% 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story