コラム

プリゴジン反乱で「ロシア軍の戦闘力」はどこまで低下する? 兵力的な悪影響だけでない、問題の深刻さ

2023年06月30日(金)17時14分

プーチンがワグネルのような非合法な民間軍事会社を重宝したのは、いくら死傷者を出しても公式に記録されず、世論の厭戦ムードや政権批判を押し上げることは決してないからだ。

国防省・軍のエリート批判を強めるプリゴジンに対し、ショイグはすべての民間軍事会社は国防省と契約を結ばなければならないと指示し、民間軍事会社を実質的にロシア軍に吸収する荒業に出た。これとワグネルに攻撃を加えたことが「プリゴジン暴発」の引き金になった。

「知的側面にも影響がある。プリゴジンの要求にかかわらず、プーチンがショイグやワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長を解任する可能性は低い。 彼らは概して戦場でウクライナ軍より想像力に欠け、適応が遅かった。プリゴジンの反乱は逆にこの2人の地位を強固なものにしたのかもしれない」(ライアン氏)

ロシア軍では指揮系統で誰を信頼できるのか不安が続く

プリゴジンは6月23日の「反乱蜂起」声明で「ウクライナと北大西洋条約機構(NATO)がロシアを攻撃しようとしているという特別軍事作戦の大義はすべて嘘」と否定し、最後の一線を越えた。「戦争では大義が重要だ。兵士たちが命を賭するインスピレーションになる。戦争の根拠を損なうことはロシアの戦闘力を知的な面でも腐食させる」とライアン氏はいう。

戦闘力の道徳的側面について、ライアン氏は「団結心、軍事組織の価値観や倫理的スタンス、組織のさまざまなレベルがどのように相互的に作用し信頼し合っているか、そしてそこには一般的な士気も含まれる。ロシア軍では上級指揮官の間で指揮系統の中で誰を信頼できるのかという不安が続くだろう」と予測する。

ウクライナ戦争の総司令官だったスロビキンはプリゴジンの計画を事前に知っていたとされる。「このことはロシアのシステムを腐食させる。信頼の欠如はクレムリンにまで浸透するだろう。軍や治安部隊のメンバーだけでなく、一般市民から見ても、現場の指揮官や兵士の士気を低下させる」(ライアン氏)

「戦場での結果にはまだ現れていないが、現在のウクライナの猛攻撃の下でロシア軍がさらされている圧力を増大させるだろう。プリゴジンの反乱は時間をかけてゆっくりとロシア軍の戦闘力を蝕んでいく。地球上の誰よりもロシア軍を熟知しているウクライナ軍はこれを必ず利用する」とライアン氏は断言する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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