コラム

「日本人の責任とは思わない」の声もあるが...英史上最悪の「冤罪」事件、富士通の責任は?

2023年03月11日(土)14時53分
イギリスのポストオフィスの看板

英ウィンザーのポストオフィスの看板 shawnwil23-Shutterstock

<郵便局を舞台に、英最悪の「大量冤罪」事件を起こした富士通の勘定系システム「ホライゾン」。元富士通UKの内部告発者が公聴会で証言した>

[ロンドン]富士通が提供した英ポストオフィス(郵便事業のうち窓口業務を引き受ける国有の非公開株式会社)の勘定系システム「ホライゾン」の欠陥による大量冤罪事件の真相を究明する公聴会で9日、富士通UK(英国)に2001~04年に勤務したリチャード・ロール氏が証言した。ロール氏は数少ない富士通の内部告発者だ。

230311kmr_hfi01.png

公聴会で証言するリチャード・ロール氏(筆者がスクリーンショット)

ロール氏は1976年に航空電子工学エンジニア見習いとして英空軍に入り、航空機のナビゲーションシステムや兵器システムのソフトウェア開発に従事した。89年に退役したあと工場のオートメーションやロボティックス機器のプログラミングに携わった。富士通UKではプロダクト・スペシャリストとしてホライゾンをサポートしたという。

ポストオフィスは99年、取引の4割を占める年金など公的給付の窓口業務が銀行口座への直接振り込みに移行することを恐れてホライゾンの導入を急いだ。翌2000年からホライゾンの勘定に基づく現金不足の訴追が始まり、民間受託郵便局長(準郵便局長)ら706人が不足分の現金をくすねたと濡れ衣を着せられ、社会の信用と財産、人生のすべてを失った。

ロール氏は11年、冤罪の恐れを指摘する英BBC放送のニュース番組を視て「当時、ホライゾンの修復に奔走したが、システムに間違いがあった可能性がある。準郵便局長らが身に覚えのない罪で起訴されたり、刑務所に入れられたりしているのを放置できない」と思い、ホライゾンの裏側で何が起きていたのか告発することを決意した。

雪ダルマ式に増える複数エラーもしばしば

ロール氏の職場はロンドン郊外ブラックネルの富士通UKオフィスにあったが「ソフトウェア・サポート・センター」「システム・サービス・センター」「システム・サポート・センター」の呼称が入り乱れ「SSC」と呼ばれていた。ロール氏自身「SSC」がどういう意味か知らなかった。

複雑怪奇なホライゾンにはさまざまな通信システムとソフトウェア言語が入り乱れて使われていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story