コラム

スコットランド独立に猛進した「雌ライオン」スタージョンが見誤った「真の民意」

2023年02月16日(木)19時03分

「私は2つの問いに答えようとしてきた。私にとってこのまま続けることが良いことなのかという問い。そして、もっと重要な問いは、この国にとって、私の党にとって、私が人生を捧げてきた独立という大義にとって私が続けることが良いのかということだ」。スタージョン氏は自分に問いかけるように語りかけた。

中央の保守党政権はスコットランド自治政府による2度目(今年10月)の独立住民投票を阻止し、最高裁も昨年11月、スコットランド議会には住民投票実施を単独で決定する権限はないとの判断を下した。

「独立のための憲法上の道筋として認められている住民投票を(保守党政権が)妨害するのは民主主義の暴挙だ。私が次の総選挙を事実上の住民投票にすることを望んできたことはご存知だろう。それが完璧な政策だと装ったことは一度もない。だからこそ私は、この決断はスコットランド民族党(SNP)の総意として行われなければならないと公言してきた」

自ら推し進めた政策によって窮地に追い込まれる

来月開催されるSNPの大会で方針が決定される。スタージョン氏はSNPが正しいと信じる道を自由に選択できるようにするためSNP党首(自治政府首相)を退くと説明した。SNPの政党支持率は前回21年議会選の得票率47.7%から直近の世論調査では44%まで下がっている。しかしスタージョン氏は自ら推し進めた政策によってそれ以上の窮地に追い込まれていた。

元保守党副議長で富豪のマイケル・アシュクロフト氏が私費で実施したスコットランドの世論調査では、トランスジェンダーの人たちが性別認定証明書を取得しやすくするジェンダー改革について保守党政権が阻止したのは正しいと回答した人が実に43%に達し、間違っているとの回答22%を倍近く上回った。ジェンダー改革に反対する人は全体で54%もいた。

「明日住民投票が行われたら独立に賛成するか」との質問には48%が「反対」、15%が「分からない」「棄権する」と答え、「賛成」は37%にとどまった。有権者の関心は「健康と公的医療サービス(NHS)」「生活費」「経済と雇用」がトップ3。これに対してスタージョン氏とSNPの優先事項は「独立」と「ジェンダー改革」と有権者の目には映っていた。

保守党との対決路線にこだわるあまり、スタージョン氏はスコットランドの民意を完全に見失っていた。次の総選挙を事実上の独立住民投票にするというスタージョン氏の主張に同意するのはわずか21%で、67%は「SNPと、政権協力する緑の党への投票をすべてスコットランド独立への投票と決めつけることはできない」と回答した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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