コラム

「BBCは存亡の危機」、理事長に「利益相反」疑惑が浮上...背景に受信料モデルの限界と政治の圧力

2023年01月24日(火)20時42分

BBCの試算では同じサービスを有料で受けた場合、対価は450ポンド(約7万2700円、2021年時点)という。受信料据え置きで27年度には収入不足は2億8500万ポンド(約460億円)に達する見通しだ。「受信料の発表はこれが最後」と受信料廃止をぶち上げたジョンソン派のナディーン・ドリス氏は1年で文化相を辞任したものの、BBCは警戒を緩めない。

ティム・デイビーBBC会長は昨年9月、英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ委員会で「公平性や独立性を守り、クリエイティブ産業を発展させるために受信料制度は重要」との見方を示した。デイビー氏はドリス文化相が就任した時、「10年に10人の担当大臣が交代した。影響を予測するのは非常に難しい」と政治との関係の難しさを吐露した。

「BBCは存亡の危機に直面している」

同年5月の英上院通信・デジタル委員会で、ニュース・子供向け番組・主要スポーツ大会など「コア」サービスを税金の一部で運営する公共放送として維持する一方で、より商業的な娯楽やドラマを視聴する人には上乗せ料金を支払ってもらう「2階建てモデル」の改革案について、シャープ氏はこう語っている。

「理事会は何も除外していない。BBCは存亡の危機に直面しており、理事会は先入観にとらわれず、あらゆる選択肢を検討するよう求められていることを真剣に受け止めなければならない。われわれは公共放送の価値を理解しているが、必要になるかもしれない特定のメカニズム、調整、変更を排除するものではない。BBCは変わらなくても良いというわけではない」

欧州連合(EU)離脱を主導したジョンソン氏は、残留派と離脱派のバランスを取りながら公平な報道に努めたBBCを「Brexit Bashing Corporation(ブレグジット叩きの協会)」「出演者には高額の報酬を支払う余裕があるのに、無料だった75歳以上にも受信料を課した」と声高に非難し、BBCをフラストレーションのはけ口にした。

保守党政治家のBBC叩きは何も今に始まったことではない。1982年のフォークランド紛争でも、マーガレット・サッチャー首相が「BBCは英機動部隊を大西洋8000マイル南下させてアルゼンチン軍を撃退することに反対する少数の声を誇張して伝えた」「わが軍ではなく(客観的に)英軍と呼んだ」と愛国心のなさを嘆き、受信料廃止論を唱えたことがある。

始まったBBCからのエクソダス

BBCは世界に4億9200万人の視聴者を持つ「メディアの巨人」である。21年度の収入53億3000万ポンド(約8600億円)のうち38億ポンド(約6100億円)は受信料で賄われていた。見習いを含めたスタッフ総数は22年で前年比938人減の2万1281人。ジョンソン氏やドリス氏のバッシングに嫌気が差したのかBBCからのエクソダスが始まっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド家屋被害、ロシアのドローン狙った自国ミサ

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け不安定な展開

ワールド

英、パレスチナ国家承認へ トランプ氏の訪英後の今週
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story