コラム

「BBCは存亡の危機」、理事長に「利益相反」疑惑が浮上...背景に受信料モデルの限界と政治の圧力

2023年01月24日(火)20時42分
英BBC本社の外観

英BBC本社の外観 AmandaLewis-iStock

<ゴールドマン・サックス出身の理事長が、ジョンソン元首相の融資保証を手助けした「利益相反」疑惑に揺れるBBCの構造的問題>

[ロンドン発]英与党・保守党の大口献金者で米大手金融ゴールドマン・サックス出身のリチャード・シャープ氏が、ボリス・ジョンソン首相(当時)によって英国放送協会(BBC)理事長に選ばれる数週間前に、同首相への最大80万ポンド(約1億3000万円)の融資保証を手助けしていた疑いが英日曜紙サンデー・タイムズのスクープで浮かび上がった。

2020年、ジョンソン氏は子供の養育費など2人目の妻との離婚の支払い、新妻のわがままで膨れ上がった首相官邸改修費で資金繰りに窮していた。ジョンソン氏の遠縁に当たるカナダの大富豪が保証人になって融資を引き出すことを思いつき、シャープ氏に助言を求めた。

内閣府の倫理担当チームはシャープ氏が理事長就任を控えていたことから、ジョンソン氏に自分の資金繰りについてシャープ氏に助言を求めるのを止めるよう伝えた。

シャープ氏は大富豪を内閣官房長に紹介したことを認めたが、財務上の助言はしておらず、利益相反はなかったと疑惑を否定している。ジョンソン氏側も「シャープ氏と大富豪を首相公式別荘(チェッカーズ)に招いて夕食会を開いたことも当時、報告しており、何が問題なのか」と同紙に反論した。

同紙によると、シャープ氏はゴールドマン・サックス時代、リシ・スナク現首相の上司で、当時、財務相だったスナク氏のコロナ経済対策の顧問を務めていた。内閣官房長は大富豪の協力に同意し、デューデリジェンスを開始するとともに、シャープ氏にはこの一件から手を引くよう伝えたという。

くすぶり続ける受信料廃止の火種

BBC理事長職には誰でも立候補でき、諮問パネル4人からデジタル・文化・メディア・スポーツ相(文化相に省略)への助言を受け、首相が最終決定する。応募時に利益相反を申告しなかった場合、公職には就けない。シャープ氏は次のBBC理事会指名委員会が開催される時に自らに利益相反があったかどうかを検証し、その結果を公表すると約束した。

何やら安倍晋三元首相(故人)の日本放送協会(NHK)への介入を連想させる出来事だが、政治と一定の距離を保ち、NHKのお手本とされてきたBBCも政治の圧力には抗し切れなくなってきた。昨年、開局100周年を迎えたBBCは159ポンド(約2万5700円)の受信料を2年間据え置かれ、その後の4年間はインフレ率に連動して値上げされることが決まった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story