コラム

環境対策で中国に並ぶ「悪役」だったインド、なぜ一躍ヒーローに? 日本とここが違う

2022年11月19日(土)16時41分
ヤーダブ環境・森林・気候変動相

COP27に出席したインドのブペンダー・ヤダフ環境相(11月14日) Mohamed Abd El Ghany-Reuters

<COP26では中国とともに「悪役」になってしまったインドだが、今回のCOP27では国際的に称賛される存在になっている>

[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]世界の気候変動対策を追跡しているドイツの環境NGOジャーマンウォッチと新気候研究所は国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で毎年恒例の「気候変動パフォーマンスインデックス(CCPI)」を発表した。1~3位は該当国がなく最高は4位デンマーク。日本は昨年より5つランクを下げ50位だった。

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機が野心的な気候政策の妨げになっていることが今回の報告書で浮き彫りになった。今、多くの国が競ってロシア産エネルギーに代わる新しい化石燃料を探しており、空前の「ガスラッシュ」が起きている。

ジャーマンウォッチと新気候研究所は2005年から毎年、世界の温室効果ガス排出量の92%を占める欧州連合(EU)加盟国と59カ国の気候変動対策を温室効果ガス排出量、再生可能エネルギー、エネルギー使用量、気候政策の4分野に分けて評価している。同インデックスは金融機関の環境・社会・ガバナンス(ESG)格付けの重要な目安になっている。

評価が非常に高かった国は北欧の4位デンマーク、5位スウェーデンに、6位チリ、7位モロッコ、8位インドと続く。COP26の議長国だった英国は11位、ウクライナ戦争の影響をまともに受けるドイツは16位だった。EU全体では中位の19位。日本は評価が非常に低いグループで50位。そのあとに「排出超大国」の51位中国、52位米国と続く。

デンマークでさえエネルギー使用量は依然として多く、エネルギー効率化にはまだ改善の余地が多くある。現在の気候政策では25年までに温室効果ガスを50~54%減らすという目標を達成できないという。

1人当たりの排出量とエネルギー使用量が少ないのがインドの強み

インドは昨年、COP26の土壇場で中国とともに「削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的廃止」という成果文書の表現を「段階的削減」に弱めたことから悪役になった。しかし今年は、石炭にとどまらず「化石燃料の段階的削減」を文書に盛り込むよう呼びかけ、オセアニアの島嶼国ツバルやEU、米国、英国の賛同を得て一躍COP27のヒーローになった。

1人当たりの排出量とエネルギー使用量が少ないインドは再生可能エネルギーの割合を増やし、昨年よりランクを2つ上げた。同国では1995~2020年にかけ1058件の気候災害に見舞われている。インド政府は「国が決定する貢献(NDC)」を更新して「70年ネットゼロ(排出量の実質ゼロ)」目標を達成するための戦略を発表している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米

ビジネス

米FRB、「ストレステスト」改正案承認 透明性向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story