コラム

気候変動問題は、今や国際政治を動かす「地政学」に...バイデンCOP27「強行参加」の狙い

2022年11月12日(土)16時04分
COP27のバイデン大統領

COP27で演説するバイデン米大統領(11月11日) Mohamed Abd El Ghany-Reuters

<中間選挙で苦戦を強いられながら、バイデンが数時間の強行軍でCOP27を訪れたのは、それだけこの問題が地政学的な重要性を持っているためだ>

[シャルム・エル・シェイク(エジプト)発]米中間選挙で何とか大敗を免れたジョー・バイデン米大統領(民主党)が11日、シャルム・エル・シェイクで開催されている国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)に数時間だけ顔を出し、「(アントニオ・グテーレス国連事務総長が言う)気候地獄を回避するため米国は自らの役割を果たす」と宣言した。

この日、ナンシー・ペロシ米下院議長(民主党)率いる米下院代表団もCOP27を訪れ、「未来の世代と現在のため地球を守り、公平性、包括性、多様性をもたらす方法で解決策を生み出す」(ペロシ氏)と誓った。米民主党からはアル・ゴア元副大統領、ジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使も参加する力の入れようだ。

バイデン氏はこの日の演説で、ドナルド・トランプ前米大統領が気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱したことをまず謝罪した。しかし中間選挙の結果、米上下両院で過半数を失う事態に陥れば、COP27でいくら花火を打ち上げても絵に描いた餅に終わる。バイデン氏はそうした懸念を振り払うように熱弁をふるった。

「世界気象機関(WMO)によると過去8年間、記録的な温暖化が続いている。米国では西部で歴史的な干ばつと山火事、東部で壊滅的なハリケーンと暴風雨が発生した。アフリカの角では4年にわたる厳しい干ばつにより、食糧不安と飢餓が起きた。ナイジェリアでは洪水で600人が死亡し、130万人以上が避難した」

米国はインフレ抑制法で51兆円

バイデン氏は「気候の破局を回避し、クリーンエネルギー経済を実現することが不可欠であるだけでなく私たちの使命だと認識している。米国はこの2年間でクリーンエネルギーを送電できる電力網を整備し、電気自動車充電スタンドを全国5万カ所以上に構築した。この夏、米議会は最も重要な気候変動法案のインフレ抑制法を可決した」と実績を強調した。

バイデン政権は陸上風力、洋上風力、分散型太陽光、ゼロエミッション車、持続可能な航空燃料、より効率的な省電力建築、クリーンな工業プロセスや製造など、クリーン電力を支援するために3680億ドル(約51兆円)を投じる。米エネルギー省の試算によると、インフレ抑制法により2030年までに米国内の温室効果ガス排出量を約10億トン削減できるという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story