コラム

サハリン2の権益を失うか...弱い立場の日本はウクライナ戦争「最大の敗者」に?

2022年07月02日(土)19時38分

日本はウクライナとの連携を深めよ

プーチン氏は2020年の憲法改正で国際法より自国憲法を優先し、大統領の権限を大幅に強化した。プーチン氏から提示された条件に同意できなければ、三井物産と三菱商事はサハリン2の権益を失い、損失はさらに膨らむ。シェルはサハリン2の株式売却のためインドのエネルギー企業連合と交渉中とされる。

シェルと日本勢の三井物産と三菱商事の差はどこにあったのか。新型コロナウイルス・パンデミックに関連して、医学研究を支援する英慈善団体ウェルカム・トラストの責任者ジェレミー・ファラー氏は自著『Spike: The Virus vs. The People - the Inside Story(筆者仮訳:ウイルス対人類の戦い)』でこんなエピソードを明かしている。

コロナの起源について人造ウイルスの疑いがあることを2020年1月、理事長のイライザ・マニンガム=ブラー元英MI5(情報局保安部)長官に報告すると、関係者は全員、現在の携帯電話や電子メールを捨てるよう助言された。シェルのCEOが的確な判断を下せたのも同じように軍や情報機関、外交コミュニティーから公式、非公式の助言があったはずだ。

北方領土やエネルギー問題を抱え、ロシアは日本にとって敵に回したくない国だ。ましてやプーチン氏と中国の習近平国家主席に手を組まれるのは最悪のシナリオである。しかし少女のレイプや民間人の拷問などロシア軍がウクライナで行っている残虐行為に目をつぶるわけにはいかない。米英両国はあらゆる形でウクライナ国内に入り込み、情報を収集している。

英特殊空挺部隊(SAS)と米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)がウクライナに入っているのはもはや公然の秘密である。元軍関係者の多くが民間人としてウクライナ国内で活動している。ボリス・ジョンソン英首相はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と頻繁に連絡を取るなど首脳外交も活発に行われている。

日本ももっと深く、ウクライナとの連携を強める必要がある。そうでないと生きた情報はとても取れまい。西側と中露の対立が深まる21世紀、日本は進路を誤るわけにはいかない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る

ワールド

「ロールタイド」、トランプ氏がアラバマ大卒業生にエ

ワールド

英地方選、右派「リフォームUK」が躍進 補選も制す

ビジネス

日経平均は7日続伸、一時500円超高 米株高や円安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story