コラム

脚が吹き飛び、胸を撃たれた時の対処法は? ウクライナ「救護訓練」で見た国民の覚悟

2022年06月24日(金)17時10分

2発目のIEDが車外に逃れたマークを車の扉ごと吹き飛ばした。運河に落ちたマークを救い出してくれたのがアブドゥルだった。こんなこともあった。ヘルマンド州での救護訓練の初日、青空市場で自爆テロが起きた。アブドゥルは走り出し、負傷者を手当てした。しかし昨年8月の米軍撤退で、アブドゥルは家族とともにアフガンに残された。

「アブドゥルはパシュトー語、ダリー語、ウルドゥー語、英語、ロシア語の5カ国語を使いこなし、私の右腕だった。書類を整え順番を待った協力者より、空港に来て米軍のC17輸送機に紛れ込んだ人が脱出できた。半分は関係のない人だった。昨年の夏は大混乱したが、ジョー・バイデン米大統領は少しずつ彼らを救い出している。彼は約束を守る男だよ」

「とにかく出血を止めることを優先しろ」

カブールを奪還したイスラム原理主義勢力タリバンは狡猾だ。国際機関や米欧の支援が止まるとタリバン政権は瞬く間に崩壊する。アブドゥルのような協力者に米政府からグリーンカード(永住権)が出ると、タリバンは手も口も出さない。ノドから手が出るほどカネが欲しいからだ。こう解説するマークには現場で培ったしたたかな知恵と行動力と温かみがある。

220624kmr_ubi02.jpg

戦闘外傷救護のコースを体験する妻の史子(筆者撮影)

ウクライナの軍服には戦場での救護に使えるようポケットが三角巾代わりに使えたり、止血用ガーゼを入れたりできる工夫が凝らされている。ロシア軍の侵攻で戦闘外傷ケア用品が不足し、米欧など支援国からさまざまな治療キットが流入し、現場が混乱している。最大の支援国である米軍キットの使い方をウクライナ軍に教えるのがマークの重要な任務の一つだ。

筆者と同行する妻の史子(元日本テレビロンドン支局報道プロデューサー)は2人そろってマークの戦闘外傷救護のコースに参加した。

220624kmr_ubi03.jpg

偵察中に重傷を負ったとの想定で応急措置を受ける筆者(木村史子撮影)

筆者は、偵察中に右足を付け根から吹き飛ばされ、頭部を負傷、胸に3発被弾した負傷兵役を仰せつかった。参加者の軍医が筆者に応急措置を施している最中に攻撃に見舞われる事態に陥った。現場の指揮官を失っても残りの兵士が迅速に措置を続ける。「どんな場合でも、とにかく出血を止めることを最優先にしろ」とマークが声をかけた。

レッド、イエロー、グリーンの3つに分けられたゾーンで行える措置は予め決められている。点滴は脱水症状を起こしている時以外はレッドゾーンでは行わない。マークのコースは参加者のレベルによって最大5日間に及び、テストで8割正解しないと合格しない。この日は注射、点滴、輸血、気管切開、胸腔から空気を抜く気胸の応急措置がテーマだった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story