コラム

ドンバスでの「小さな勝利」にすがるプーチン、「局地的な反乱相次ぐ」英機密報告書

2022年05月31日(火)20時40分

プーチン氏とその側近たちは今や生ぬるい「宥和主義者」として、これまで強力な支持基盤になってきた強硬派、軍事愛好家、元軍人、民族主義者から突き上げられている。「ロシア軍は東部ルハンスクでウクライナ側最後の拠点とされるセベロドネツク市を包囲するため兵力を注ぎ込んでいる。ウクライナ軍に反撃のチャンスが出てきた」とISWは分析する。

デーリー・ミラー紙のスクープによると、機密報告書は、クレムリンの有力者がプーチン氏にウクライナ侵攻は大惨事だと説得しようとしたものの全く聞き入れられず、プーチン氏は依然としてドンバスでの「部分的勝利」は勝ち取れると信じていると示唆している。しかし、おびただしい「血の犠牲」はロシア軍にとって重すぎるかもしれないと分析する。

「ドンバス解放に失敗すれば、プーチンは退陣する」

「もし限定的なドンバス解放作戦に失敗してもプーチン氏が核攻撃を命令するとは考えられない。それはロシアの指導者はドンバスでの勝利が目前に迫っており、キーウに対して大きな影響力を与えられると確信していることを示唆している。しかし失敗すれば、プーチン氏は退陣することになる」と同報告書は分析する。

「ドンバスで迅速かつ決定的な勝利を収めようとするロシア軍の試みは、まだ成功していない。ロシア軍はまだ1日に1~2キロメートルずつしか前進できていない。ロシア軍は現在の2022年ではなく第二次大戦の1945年を思い起こさせる非常にコストのかかる歩兵攻撃を繰り返す泥仕合で成功を収めている」

「プーチン氏はこれまで作戦の甚大な失敗をロシア国民からうまく隠蔽し、逮捕または更迭した役人に責任をなすりつけてきた。ロシア国民はつい最近までプーチン氏が拡散する偽情報を鵜呑みにしていた。クレムリン内部で、物事が間違っている、おそらくは破滅的に間違っているというメッセージをプーチン氏と側近に伝えようとする動きが出ている」

220531kmr_reu02.jpg

ウクライナ軍参謀本部によると、2月24日から5月30日までのロシア軍の戦闘損失は兵員 約3万350人、戦車1349両、戦闘装甲車3282両、大砲システム643門、多連装ロケットシステム205基、防空システム93基、航空機207機、ヘリコプター174機、無人航空機507機、ミサイル118発、艦艇13隻、燃料車など2258台となっている。

兵員の犠牲者数が同じため、英機密報告書はウクライナ軍と情報を共有している可能性がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story