コラム

プーチンに自国を売り渡し、「戦争の共犯者」に成り下がった「欧州最後の独裁者」

2022年03月12日(土)17時20分

「ウクライナの同胞が最愛の家族を失い、祖国を後にしなければならない。産科病院が爆撃された。ベラルーシはロシアによって戦争の踏み台に使われた。私たちの祖国は事実上、ロシアに軍事占領されている。2月24日のウクライナ侵攻で始まった新たな現実は、民主主義を守る私たちの闘いが主権を取り戻す闘いに変わったということを意味する」

開戦2日後の26日、ベラルーシの首都ミンスクでは1年半に及ぶ民主派弾圧にもかかわらず、数万人が抗議のため街頭に繰り出し、800人以上が当局に拘束された。国外から抗議活動を主導したのはスベトラーナさんだ。2年前、大統領選に立候補する予定の民主活動家の夫セルゲイさん(43)が当局に拘束され、代わりに自分が立候補するまで一介の英語教師に過ぎなかった。

220312kmr_uch03.JPG

2児の母親で1人の英語教師に過ぎなかったスベトラーナさん(筆者撮影)

「ロシアのような世界の嫌われ者にはなりたくない」

2児の母親でもあるスベトラーナさんは政治や選挙についてはズブの素人だったが、「大統領選に当選したら全政治犯を釈放する。半年後に大統領選をやり直す」という、夫を愛する妻としての訴えが国中の共感を集めた。元駐米ベラルーシ大使の妻ベロニカ・ツェプカロさんとフルート奏者マリヤ・コレスニコワさんと一緒の写真は選挙運動のシンボルになった。

大統領選の結果、スベトラーナさんの得票率は10%。ルカシェンコ氏は80%の支持を得て大差で6選を果たしたが、「選挙に不正があった」とベラルーシ全土に抗議デモと混乱が広がり、スベトラーナさんは安全のため祖国を逃れた。夫のセルゲイさんには昨年12月、大規模な混乱を組織した罪などで懲役18年の実刑判決が宣告された。

チャタムハウスの世論調査ではベラルーシ市民の11%がロシア軍を支援するためベラルーシ軍をウクライナに送ることに同意したが、「今やルカシェンコ支持者でさえ戦争に反対している。ベラルーシはロシアのように世界の嫌われ者になることを望んでいない。戦争反対の声が祖国の民主化を後押ししている」とスベトラーナさんは力を込めた。

彼女によると、現在、ベラルーシ軍は国境を越えてウクライナに入るのを拒んでいる。しかし「独裁者の考えを改めることはできないし、彼らは決して平和をもたらさない。ルカシェンコは憲法を改正して生涯、刑事責任を問われることはなくなった。ウクライナに兵を送るのは平和維持のためだと平気で嘘をつくだろう」という。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story