最新記事

歴史

プーチンの異常なウクライナ「執着」の源...1000年に及ぶ歴史から完全解説

TRAPPED IN OLD MYTHS

2022年3月10日(木)21時06分
クリスタプス・アンドレイソンズ(ジャーナリスト、在ラトビア)
ウラジーミル1世

東方正教会を国教としたキエフ大公のウラジーミル1世 UNIVERSAL HISTORY ARCHIVE-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<ウクライナとロシアの対立の原因は、文化や宗教をめぐって起こったキエフ大公国にまでさかのぼるあまりにも古い軋轢にある>

ウクライナの危機については、経済や安全保障の観点からさまざまな解説がなされている。だが、それだけでは事の本質が見えてこない。ロシアとウクライナの紛争に関しては、文化的、歴史的、宗教的な背景を知ることが重要だ。

それは「ロシア」とは、「ロシア人」とは何なのかという問いにさかのぼる作業。そして古い「神話」をめぐって、その正しさはわが方にあると、どちらが主張できるのかという点に集約される。

昨年7月12日、ロシア政府の公式ウェブサイトに、ウラジーミル・プーチン大統領による「ロシア人とウクライナ人の歴史的な一体性について」という論文が掲載された。プーチンをはじめとして多くのロシア人の考えを形成する歴史的な視点を知る上で、重要な資料だ。

まず、プーチンや多くのロシア人は、ロシア人とウクライナ人を同一の民族と見なしている。ロシア人は「大ロシア人」、ウクライナ人は「小ロシア人」と呼ばれる。ベラルーシについても同様で、国名は「白ロシア人」を意味する語に由来する。

1547年にイワン4世が戴冠したとき、公式の呼び名は「全ロシアのツァーリ(皇帝)」だった。「全ロシア」とは、キエフ大公国の後継国や諸公国を指している。

キエフ大公国は、9世紀のバイキングを祖とするリューリク朝の治世下にあった。リューリク朝はノブゴロドで発祥し、その後882年にキエフに遷都。キエフはリューリク朝の諸公国の大首都となった。この頃のモスクワは僻地で、初めて文書に記されたのは1147年だった。

キエフ大公国を祖とする3カ国

ロシアとウクライナ、ベラルーシの関係が他の旧ソ連諸国とのそれと大きく異なるのは、起源とする国が同じだという点だ。

この3国は、いずれもキエフ大公国を文化的・政治的な祖としている。プーチン自身もこの考えを信奉しており、自身の論文にこう書いた。

「キエフの君主は、古代ルス(ロシア)において支配的な地位にあった。これは9世紀後半からの慣例である。『原初年代記』には、オレグ公がキエフについて語った『ロシアの全ての都市の母になれ』という言葉が残されている」

プーチンも示しているが、ロシアとウクライナの密接な関係を示す説の裏付けの大半は宗教に絡んでいる。始まりは、988年に東方正教会を国教としたことで知られるキエフ大公のウラジーミル1世だ。

ウラジーミル1世が正教に改宗し、ビザンティン帝国(東ローマ帝国)の皇女を妃に迎えたことで、この帝国にさかのぼる正統性の系譜が始まることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イラン、6日に核協議 イスタンブールで=関係筋

ワールド

グリーンランド首相「米の同地巡る支配意図変わらず」

ワールド

英、ロシア外交官を追放 先月の同様の措置への報復

ビジネス

米ISM製造業景気指数、1月は1年ぶり節目超え 受
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中