コラム

「ロンドンはオミクロン株の首都になる」対策強化よりクリスマスを優先させた英首相のギャンブル

2021年12月22日(水)18時11分
ジョンソン英首相

感染対策よりクリスマスを優先した英ジョンソン首相に明日はあるか?(12月16日、首相官邸前) Toby Melville-REUTERS

[ロンドン発]官邸の改装費肩代わり疑惑、国民には自粛を強いながら昨年、官邸でクリスマスパーティーを開いていた疑惑、元閣僚の不正ロビー活動を首相がもみ消そうとした疑惑などが相次いで発覚し、支持率が66%から23%に急落したボリス・ジョンソン英首相は12月21日、人気取りのためオミクロン株対策よりクリスマスを優先させる賭けにでた。

コロナパスポートの一部導入など規制を強化する「プランB」の下院採決で与党・保守党から99人もの造反が出た。さらに規制強化を不満として首相側近の欧州問題首席交渉官が辞任して窮地に追い込まれたジョンソン首相。「プランB」でもオミクロン株の感染爆発は防げないという専門家の意見を無視してツイッターでクリスマスにゴーサインを出した。

ロンドンで暮らす筆者の友人も知人も次々と風邪のような症状を示し、コロナ陽性となった。PCR検査を受けても陽性としか通知が来ないのでオミクロン株かどうか本人には分からないという。デルタ株に比べ重症化しないとされるオミクロン株がロンドンで燎原の火のごとく広がる中、ジョンソン首相の賭けは成功するのか、それとも裏目に出るのか。

医療スタッフの1割が病欠?

英キングス・カレッジ・ロンドンのニール・グリーンバーグ教授(精神衛生)は「多くの人が不安を覚える不確実性が取り除かれ、精神衛生上、良い影響を与える。不確実性を持続させると危険が伴う。特に不安症の人はメディアのネガティブな見出しを追いかけすぎてしまう。 しかし負担を強いられる医療従事者には良い印象を与えないだろう」という。

ロンドンでは1日の新規感染者は11月6日の2480人から12月15日には2万7509人と11倍超にハネ上がり、新規入院患者も11月上旬の80人台から245人に3倍以上に拡大した。それに伴って医療従事者の病欠も12月12~16日の間に1900人から4700人に膨れ上がった。ある病院関係者は筆者に「病欠はスタッフの1割ぐらいある」と打ち明ける。

「英国民医療サービス(NHS)はエビデンスに基づくサポートメカニズムを継続的に導入する必要がある。長期的にどのように人員を増やしていくのか計画を明確にして、たとえ時間がかかっても医療従事者に『援軍は必ずやって来る』と確信させなければならない。ただ『頑張れ』と言っても効果的な戦略とは言えない」とグリーンバーグ教授は指摘する。

英ウォーリック大学医学部のウィルス学者ローレンス・ヤング教授は「ジョンソン首相のアプローチは極めて危険だ。近い将来、より厳しい規制が必要になる可能性が非常に高い。このままオミクロン株が蔓延し続けるとさらなる規制が必要になる事態は避けられない。 症例数や入院数が増えるのを待っていては手遅れになる恐れがある」と警告する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

コロナワクチンで子ども10人死亡、米FDA高官が指

ビジネス

3大格付会社、英予算に一定の評価 高い執行リスクも

ビジネス

MSに人権リスク報告求める株主提案支持へ、ノルウェ

ビジネス

午前の日経平均は反落、846円安 植田総裁発言で1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story