コラム

再びウクライナ侵攻の構えを見せるプーチン露大統領の一手は「攻め」か「守り」か

2021年12月06日(月)20時25分
プーチン

バイデンとの首脳会談後、リムジンに乗り込むプーチン(6月、スイスのジュネーブで)Alexander Zemlianichenko/REUTERS

<早ければ来年の初頭にもウクライナに侵攻する計画といわれるプーチンのロシア。クリミア併合の二の舞を避けようと、バイデンとプーチンは急遽、オンラインの首脳会談を開く>

[ロンドン発]米紙ワシントン・ポストが米政府高官の話や米情報機関の機密文書をもとに「クレムリンが早ければ来年初頭に最大17万5千人の規模でウクライナに多方面の攻撃を計画している」と報じたのは今月3日夕。ウクライナ危機を回避しようとジョー・バイデン米大統領とウラジーミル・プーチン露大統領は7日、オンライン形式で首脳会談を開く。

2013年、バラク・オバマ米大統領(当時)が「世界の警察官」役を返上し、シリア軍事介入を撤回したことを機に、プーチン大統領は翌14年、ウクライナのクリミア併合を強行、ウクライナ東部の親露派の分離独立武装勢力と連携して紛争を拡大させた。中東でもアサド政権を支えるためシリアに軍事介入した。

今年8月、バイデン大統領はアフガニスタンから米軍を撤退させ、イスラム原理主義武装勢力タリバンの復権を黙認した。バイデン大統領の弱気につけ込み、権威主義国家のロシアや中国はウクライナや台湾で揺さぶりをかける。バイデン大統領がオバマ氏と同じように武力行使をためらえば、クリミアの悲劇が繰り返される恐れがある。

北大西洋条約機構(NATO)加盟を望むウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がロシアの神経を逆なでし、プーチン大統領は今年3~4月、ウクライナ国境近くに10万人以上のロシア軍を集結させ、緊張を高めた。プーチン大統領はウクライナのNATO加盟で西側の軍事力がロシアの下腹部に突きつけられることを恐れている。

欧州とも部外秘の機密情報を共有したバイデン米政権

米政府高官はワシントン・ポスト紙に「意図をあいまいにし、不確実性を生み出すため、計画では今年春にウクライナ国境付近で行った演習の2倍にもなる100個の大隊戦術グループと推定17万5千人の人員、装甲、大砲、装備品を広範囲に移動させることになっている」と語っている。

アントニー・ブリンケン国務長官は11月29日から12月2日にかけ、NATO外相会合やラトビア、スウェーデン訪問でいつもなら部外秘のこうした機密情報をロシアとの経済関係が強いドイツなど欧州連合(EU)諸国やNATOの同盟国と共有、プーチン大統領がレッドライン(越えてはならない一線)を越えた場合には強力な制裁に踏み切る方針を確認した。

NATO外相会議でイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長は「われわれは装甲部隊、ドローン(無人航空機)、電子戦システムと何万人もの戦闘可能なロシア軍を目前にしている」と発言。ブリンケン国務長官も「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した場合、すぐに実行できる能力を備えていることは分かっている」と警鐘を鳴らした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

米FRB、金利は据え置きか 関税問題や中東情勢不透
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story