コラム

真珠湾攻撃から80年、米中は歴史を繰り返すのか 英地政学者が恐れる「茹でガエル」シナリオ

2021年11月25日(木)17時15分

――英紙フィナンシャル・タイムズが、中国が7月に実験した極超音速兵器が音速の5倍以上の速さで南シナ海上空を滑空中にミサイルを発射していたと報じました。これまでどの国も実現していない世界初の先端技術だそうです

「軍事バランスに影響を与える可能性があります。西側諸国は同じような経験をしています。1957年に旧ソ連が世界初の人工衛星の打ち上げに成功して宇宙競争で先行し、『スプートニクショック』と呼ばれる衝撃がアメリカに走りました。問題は中国のアドバンテージがいつまで続くかです。来月にはアメリカが追いついている可能性もあります」

――英北部スコットランド・グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では米気候変動対策大統領特使のジョン・ケリー元国務長官と中国の解振華・気候変動事務特使が電撃的に「2020年代の温暖化対策強化に関する米中グラスゴー共同宣言」を発表しました。アメリカ、欧州連合(EU)、中国、インド、ブラジルの特使が土壇場で密室協議を行い、歴史的な合意に達しました

「気候変動など、いくつかの課題で米中が協力し、南シナ海などそれ以外の問題で競争することに何の矛盾もありません」

――台湾問題について最も可能性の高いシナリオは何だと思いますか

「私は2つの可能性があると考えています。1つは中国がストレートに海峡を越えて台湾を攻撃するというもので、これは可能性としてはあると思います。より可能性が高いのは、ある種のハイブリッド戦争で台湾への圧力を徐々に高めていくことだと思います。経済的に台湾を分断しようとしたり、台湾の親中勢力を支援しようとしたり。カエルを鍋の中で煮るようなものです。これがより確率の高いシナリオだと考えています」

――アメリカが台湾問題から手を引く可能性は

「アメリカが手を引く可能性を恐れています。だからこそ本当に重要なのは、台湾が侵略されたときにアメリカが反撃することではありません。その場合、世界規模の大戦になることは疑いようがありません。中国に対して台湾海峡を越えたら何が起きるかということをしっかりした形で伝えることが大切です。今のところ、そのメッセージは確実には中国に伝わっていないと思います」

――アメリカの台湾関係法があります。中国が台湾に侵攻した場合、アメリカは自動的に参戦するのでしょうか

「集団的自衛権を定めた北大西洋条約機構(NATO)条約の5条に相当するものがないと思います。あなたがこの質問をしていること自体、明確になっていないことを示しています」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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