コラム

真珠湾攻撃から80年、米中は歴史を繰り返すのか 英地政学者が恐れる「茹でガエル」シナリオ

2021年11月25日(木)17時15分

フランクリン・ルーズベルト米大統領も米議会の孤立主義勢力が対日戦争だけを望んでいることを知っていた。実際「将来、恥辱として記憶に刻まれる日」で始まる演説で、ルーズベルトはドイツには一切触れず日本だけに絞った宣戦布告を行っている。「ルーズベルトや米介入主義者、連合国を解き放ったのはヒトラーだ」とシムズ教授は指摘する。

米大統領、国際資本主義、世界のユダヤ人が自分の破滅を望んでいると確信したヒトラーは枢軸国が優位に立っている間に主導権を握ることを選んだと結論付ける。ヒトラーが対米宣戦布告をしていなかったら、ロシアやイギリスから資源を奪い、大戦の行方は変わっていたかもしれないというのが、シムズ教授らが投げかける「歴史上のイフ(もし)」である。

しかし英軍事歴史家ソール・デービッド氏は英紙タイムズで「ヒトラーの宣戦布告がなかったとしても、ルーズベルトはドイツとの戦争が不可避になるまでイギリスとロシアを支援し続けていただろう。それは単に時間の問題だった」と反論している。シムズ教授らの共著は米紙ニューヨーク・タイムズでも取り上げられた。

シムズ教授らの「歴史上のイフ」がアングロサクソン国家のイギリスやアメリカで注目される理由は、香港、中国新疆ウイグル自治区の人権問題、新型コロナウイルスの起源、台湾、東シナ海や南シナ海の海洋利権、貿易、5Gや人工知能(AI)など最先端テクノロジーを巡り、米中の対立がこれまで以上に深刻化しているからである。

80年前の歴史は繰り返すのか

英海軍の最新鋭空母クイーン・エリザベスの空母打撃群は今年、南シナ海をはじめインド太平洋地域に展開した。香港の「一国二制度」を反故にした中国への牽制であるのは明らかだ。80年前の1941年秋にも、イギリスは自国の植民地や同盟国オランダ領の東インド諸島への日本の攻撃を抑止するため、戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋艦レパルスを東アジア海域に派遣している。

歴史は繰り返すのか、シムズ教授に筆者の疑問をぶつけてみた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ・グースに非公開化提案、評価額約14億ドル=

ワールド

トランプ米政権、洋上風力発電見直しで省庁連携

ワールド

AI企業アンスロピック、著作権侵害巡る米作家の集団

ワールド

米小売り大手クローガー、最大1000人解雇 コーポ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story