コラム

アストラゼネカ製ワクチンの公費接種、日本でもようやく承認 もっと早く認めていれば有観客の五輪もできたはずだが

2021年07月30日(金)21時00分

ウイルスや細菌が体内に侵入した場合、抗体がつくられ、病原体を攻撃して感染を防ぐ。自分の体に対して抗体はつくられないが、誤って健康な組織を攻撃する自己抗体ができることがある。コロナに感染すると、この自己抗体ができて、「ブレイン・フォグ」と呼ばれる記憶力や集中力の低下、呼吸困難など深刻なコロナ後遺症の原因になることが分かっている。

ファイザー製もAZ製もコロナウイルスの遺伝子コードを注射して人間の体内でコロナウイルスのスパイク(突起部)タンパク質をつくり免疫反応を誘発する。AZ製ではその過程でごくまれに自己抗体ができ、血小板減少を伴う血栓症の原因になることが報告されている。MHRAの報告書にはAZ製の血小板減少を伴う血栓症について詳しく書かれている。

それによると7月14日までにAZ製ワクチンを接種された2470万人のうち血小板減少を伴う血栓症は411人から報告され、71人が死亡している。このため、ワクチン・予防接種合同委員会(JCVI)は18~39歳についてはAZ製以外の代替ワクチンを打つよう勧告している。

MHRAの報告書にはなぜかファイザー、モデルナ製の血小板減少を伴う血栓症については全く記載されていない。AZ製の副反応に注目が集まったため、集計する際にバイアスがかかったのか、それともファイザー、モデルナ製は頻度が低かったせいなのか、理由は公にはされていない。

ちなみに接種後に死亡した人は全体でファイザー製460人(2千万人接種)、AZ製999人(2470万人接種)、モデルナ製7人(130万人接種)だ。

リスクとベネフィットを秤にかける

英イングランド公衆衛生庁とケンブリッジ大学のモデルを使った分析によると、ワクチン接種により640万~790万人の感染と2万6千~2万8千人の死亡を防ぐことができたという。言うまでもなく100%安全な医療もワクチンも存在しない。年齢だけでなく、それぞれの地域の感染状況、ワクチンの供給状況によってリスクの評価も変わってくる。

そのため私たち一人ひとりがリスクとベネフィットを真剣に考える必要がある。

AZ製ワクチンを開発したオックスフォード大学のセーラ・ギルバート教授とキャサリン・グリーン准教授は『ワクチン派 オックスフォード・アストラゼネカワクチンのインサイドストーリー ウイルスとの競争』を出版した。その中でグリーン准教授はこんなエピソードを紹介している。

昨年8月、ウェールズの最高峰スノードニアで休暇中にグリーン准教授はワクチン懐疑派と出くわす。「水銀や有毒化学物質などワクチンの中に何が入っているのか分からない。私はワクチンをつくった人たちを信用しない」という疑問を突き付けられたグリーン准教授はワクチンの成分を一から説明する。もちろんAZ製ワクチンには水銀は入っていない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story