コラム

日立車両の亀裂問題とイギリスの「国鉄復活」

2021年05月23日(日)21時47分
2016年5月、日立製作所の鉄道車両整備施設をキャメロン英首相と視察した安倍首相

2016年5月、日立製作所の鉄道車両整備施設をキャメロン英首相と視察した安倍首相(いずれも当時、英ウェストロンドン)Anthony Devlin-REUTERS

<日立製作所の最新車両に亀裂が見つかったのと時を同じくして、行き過ぎた民営化とコロナ禍で傷ついたイギリスの鉄道が再国有化へ>

[ロンドン発]今月8日、イギリスで複数の日立製鉄道車両から亀裂が見つかった問題に合わせたかのように1994年以来の国鉄分割・民営化路線に終止符が打たれた。英紙によると亀裂は93編成中86編成の台車や車両本体で見つかり、長さは最大28.5センチに及ぶという。全車両を修理するのに1年半かかる。安全優先の鉄道事業は市場主義と相容れなかったとしてジョンソン政権は事実上の"国鉄復活"とも言える改革案を発表したのだが...。

亀裂が見つかったのは日立製作所が笠戸事業所(山口県)と英ニュートン・エイクリフの工場で製造した都市間高速鉄道800系シリーズと近郊輸送用車両385系。4月に台車の安定増幅装置ヨー・ダンパーに深さ最大15ミリの亀裂が発見されたのに続き、5月には車両本体を持ち上げるジャッキングポイント溶接部に深刻な亀裂が見つかった。800系シリーズは世界市場に殴り込みをかけた「鉄道の日立」のまさにフラッグシップと言える最新車両だ。

「あり得ない亀裂」

「営業運転開始からわずか約3年半で車両に亀裂が入ること自体あり得ない」と鉄道関係者は筆者に打ち明ける。台車の亀裂は日本では「重大インシデント」に当たる。800系シリーズは最高時速200キロで走る。台車の異常は重大事故につながるため、ロンドンとウェールズ、スコットランド間の運行はしばらく見合わされた。日立と列車運行会社、英政府は5月13日に列車が車両基地を出る前に徹底点検を実施するなどの復旧計画で合意した。

問題のあった車両の数や原因はまだ発表されていない。亀裂が入ったヨー・ダンパーの写真を見た鉄道関係者は筆者に「溶接が安全性の高い方法で行われていれば、施工した機械か材料の問題、または構造計算など設計が間違っているかだ。材料の品質に問題があるような気がする」と指摘した。アルミによる軽量化に無理があったのだろうか。自動車の車両でも日本と海外で生産した場合では品質に差が出ることがあるという。

800系には神戸製鋼所がデータを改ざんしていたアルミが使われているが、原因は今のところ藪の中だ。与党・保守党寄りの英紙デーリー・テレグラフによると、6月中旬までに列車の約85%は運行されるものの、全車両の修理を終えるのは早くても1年半後。このため代替車両として旧型のインターシティー125、225を運行させている。同紙は「労働党が夢見た75億ポンド(約1兆1560億円)の都市間高速鉄道計画(IEP)の大災害」とこき下ろす。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story