コラム

「ファーウェイの部分容認は5Gに新型コロナウイルスを入れるのと同じ」元ミス・ワールド代表が警鐘

2020年02月07日(金)15時20分

中国・湖南省で生まれたアナスタシアさんが母親と一緒にカナダに移住したのは13歳の時。トロント大学に進み、国際関係と演劇を学んだ。中国の人権状況に関心を持ち、弾圧を受ける気功集団「法輪功」の学習者役を演じるようになった。

映画やTV出演を通じて中国の人権状況や腐敗の改善を訴えてきたことも評価され、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれた。中国で暮らす父親も最初は大喜びだった。しかし数週間後、事態は一変する。公安が突然、父親の自宅に訪ねてきたのだ。

公安は父親に「中国の人権問題に口を挟むのを止めるよう娘に伝えろ」と脅してきた。「私がこのまま人権活動を続けると、家族は離れ離れになってしまうと父は話しました。しばらく誰も私からの電話には出なくなりました」

海外の中国人活動家を黙らせるため、公安が中国に残された家族を「お茶」に呼び出し、暗に脅しをかけてくることは何度も聞かされていた。しかし、これまで役の上で演じてきたことが実際に自分や中国の家族に起きるとは思いもしなかった。

「折角、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれたのに、こんなことになるなんて」とアナスタシアさんは最初、泣いてばかりいた。しかし沈黙してしまえば中国当局の人権弾圧に自分も同意したことになる。海外の中国人留学生も自分で自分を検閲する自由のない世界で暮らしている。

海外留学しても監視下に

中国本土に容疑者を引き渡せるようになる「逃亡犯条例」改正案に端を発した香港の大規模デモについて「香港の人たちが抗議しているのは、西側の社会で暮らしてきた人には警察が自分たちの敵だと感じる経験をしたことがないからだと思います」と語る。

「警察が助けに来てくれるのではなく、自分たちを逮捕しに、弾圧するためにやって来る。香港の人たちは今、闘わなければこれが私たちの未来になるということを経験し、その恐ろしさに気付いたのです。だからこそ私たちが彼らをサポートすることが大切です」

「サポートしても私たちの望む結果が得られなかったとしても、そのこと自体が中国や香港の人たちを勇気付けることになるのです」。アナスタシアさんはミス・ワールド世界大会で中国への入国を拒否されてから世界中に招かれてスピーチするようになった。

海外の大学に留学する中国人は現地の中国大使館や中国共産党の影響下にあるプロパガンダ機関「孔子学院」を通じて監視され、中国のプラス面をアピールする運動に動員される。皆、自分で自分を検閲する自由も民主主義もない監視社会に従うことを強いられている。

「中国の浸透は世界中に広がっています。中国共産党の支配下から外れた中国人が実際にどう感じているのか、共産党支配の恐怖をどのように感じ続けているのかを語り続けています」とアナスタシアさんは力を込めた。

20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story