コラム

英国のEU離脱記念日は「××××年××月××日」玉砕した強硬離脱派

2019年04月11日(木)13時30分

「英国は決断する時だ」と“短期決戦”を唱えるマクロン仏大統領(4月10日、筆者撮影)

[ブリュッセル発]3月29日から4月12日に先送りされた英国の欧州連合(EU)離脱期限が、さらに10月31日まで延期された。これで英国が5月の欧州議会選に参加するという予想もしていなかった事態が起きるかもしれない。

4月10日、ブリュッセルで開かれたEU臨時首脳会議。6月30日までの短期延期を再び申し入れたテリーザ・メイ英首相に対し、EU側は"短期決戦(6月30日)"を迫るエマニュエル・マクロン仏大統領と"長期戦(1年程度の延期)"のアンゲラ・メルケル独首相が5時間にわたって激論を繰り広げた。

その妥協点が新しい欧州委員長が就任する前日の10月31日だった。英下院で過半数が形成された時点で英国はEUから離脱するという段取りだ。ドナルド・トゥスクEU大統領(首脳会議の常任議長)は「再延長も可能だ」と"長期戦"に含みを残した。

EU側が用意したドラフトには離脱期限は「××××年××月××日」と記されていた。いつまでたってもEUから離脱できない英国の未来を予感させる。"長期戦"になれば石頭の最強硬派も折れてメイ首相とEUの離脱協定書をのむという読みが働く。

主権にこだわる強硬離脱派

一方、"短期決戦"で英国を追い込まなければ、下院の過半数はいつまでたっても形成されず、EUの新たなプロジェクトに取り組めないという苛立ちが若いマクロン大統領にはある。その対立はメルケル首相のボディー・ランゲージに最近、露骨に現れている。

kimura1.jpg
スーツの色も一緒で、メイ英首相と打ち解けるメルケル独首相(4月10日、EU提供)


英国の最強硬派が関税自主権と北アイルランドの領土保全という主権問題に固執したため、英国のEU離脱は完全に宙に浮いてしまった。メイ首相は今、最大野党・労働党の強硬左派ジェレミー・コービン党首との与野党協議に望みをつなぐ。

メイ首相の次をあからさまに狙うボリス・ジョンソン前英外相は、市民生活と企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」も辞さない強硬離脱派。「合意なき離脱」を回避するという一点でメイ首相も、コービン党首も、EU首脳も利害が一致しているのが再延期の背景だ。

そもそも平和と繁栄のプロジェクトであるEUは「離婚(加盟国の離脱)」を想定していない。紙切れ一枚の離婚届を市町村に提出すれば別れられる日本と違って、英国とEUの「離婚届(離脱協定書)」は585ページもある。

さらに加盟各国の議会、EU首脳会議、欧州議会の承認が必要で、46年に及んだ英国とEUの結婚生活に終止符を打つのは至難の業だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

26年の米成長率予想2%に上振れ、雇用は低調に推移

ワールド

元FBI長官とNY司法長官に対する訴追、米地裁が無

ワールド

再送-トランプ氏、4月の訪中招待受入れ 習氏も国賓

ワールド

米・ウクライナ、和平案巡り進展 ゼレンスキー氏週内
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story