コラム

英国のEU離脱記念日は「××××年××月××日」玉砕した強硬離脱派

2019年04月11日(木)13時30分

「水と油」の保守党と労働党の与野党協議で恒久的に関税同盟に残留する離脱案を2回目の国民投票にかけることになれば、おそらく英国はEUから離脱できなくなるだろう。

EU単一市場・関税同盟と共通ルールをつくるというメイ首相の「自由貿易圏」案より強硬な離脱にはならないという見方が強まる一方で、強硬離脱派は"長期戦"に備える。死に体・メイ首相のあとは「ジョンソン首相」の誕生が有力視されている。

ジョンソン氏は、中国と並んでEUを米国の貿易赤字の元凶と見る米国のトランプ政権と手を結び、メルケル首相とマクロン大統領と敵対するだろう。ジョンソン氏はアングロ・サクソン国家の団結を軸にした「グローバル・ブリテン」構想を唱える。

国際通貨基金(IMF)が「合意なき離脱」になれば英国は2年間にわたって景気後退すると警告しても、最強硬派は「合意なき離脱をすれば長期的に英国経済は繁栄する」と意に介さない。主権をEUから取り戻しさえすれば大英帝国の栄光は復活すると言い募るのだ。

離脱交渉の先行き不透明感だけが増す中、ホンダの英国工場閉鎖が象徴するように日系企業の「英国離れ」は確実に進んでいる。帝国データバンクの調べでは、英国に進出する日系企業は今年3月時点で 1298 社。3年前の1380社より 5.9%も減少した。

強硬離脱になればEUの域外関税がかかり、サプライチェーンも寸断されるため、製造業が48社、物流を担う卸売業は35社も減っている。年商100億円未満の企業もリスクを恐れて124社減少した。

EUからの移民も年間純増数でピークの18万9000人から5万7000人に激減した。英通貨ポンド安が進む中、英国に出稼ぎに来ても以前ほどのうまみがなくなったからだ。

そんな中、当初の離脱期限翌日の3月30日以降、英国のパスポートから「EU」の二文字が消えた。しかし、その一方でアイルランドのパスポートを申請する件数が今年に入って昨年同期に比べ3割も増え23万件に達している。

EU離脱を見越して祖父母の出生地のアイルランド国籍を取得する英国人が増えているからだ。英国はすでに英国人からも見放され始めている。EUではなく、保守党の中の「欧州問題」に執念を燃やす強硬離脱派の論理に皆、辟易している。

直近の世論調査で労働党はついに保守党を9ポイントも引き離した。英国が欧州議会選に参加すればコービン労働党が大勝する見通しだ。奢る強硬離脱派は久しからず。メルケル首相の"長期戦"は成功し始めている。潮目は完全に変わったのかもしれない。


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※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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