コラム

英国民はそろそろEU離脱が「糞を磨く」のと同じことに気づくべきだ 強硬離脱派の大物閣僚2人辞任

2018年07月10日(火)18時00分

辞任書簡では「EUの軛から逃れるという夢は潰えた。不必要な自信喪失に窒息死させられたのだ」と訴えた。「英国は(EUの)植民地という地位に向かっている」「我々の先陣に白旗を振らせて戦地に赴かせるのと同じ」とも綴っている。

自分が思うほど偉大ではない英国

ボリス氏は英国がEU離脱後も西バルカン諸国のEU加盟をどのように支援し続けるかを説明する会議を開く予定だったが、辞任するため突然キャンセルした。外相の振る舞いを見れば、かつては7つの海を支配し、「太陽の沈まない国」として栄華をほしいままにした英国がいかに落ちぶれたかがわかる。

ボリス氏の姿は、自分が思っているほど偉大ではなくなった自意識過剰の英国をそのまま映し出している。核保有国で国連安全保障理事会の常任理事国である英国がEUを相手に、EU非加盟国のノルウェーより少しだけましな待遇を求めて四苦八苦している。しかし、そんなことは国際社会にとってはどうでも良いことだ。

おそらく英国のEU離脱に関心を持ち続けているのは、英国に拠点を置く企業と大学、強硬離脱か穏健離脱かで主導権争いを繰り広げる政治家、無理難題を押し付けられる官僚ぐらい。国民投票で離脱に投票した英国民でさえ、移民が無制限に増えるのは勘弁してほしいというだけで、あとはどうでも良いという感じだろう。

他のEU加盟国も、英国のEU離脱にはほとんど関心がない。英紙フィナンシャル・タイムズによると、今年に入って、EU離脱担当相のデービス氏がEU側の交渉担当者ミシェル・バルニエ氏と協議したのはわずか4時間。「交渉の余地はない。EUから出ていくなら英国を特別扱いするわけにはいかない。EUの5億人市場にアクセスしたければEUのルールに従え」というのがブリュッセルの一貫した立場。

英国のEU離脱という先の見えない旅はこれからも延々と続く。英国民もそろそろブレグジットそのものが「糞を磨くようなもの」であることに気づいて良い時だ。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、今年の成長率予想を2.1%に下方修正 米関税

ビジネス

中国メーカー、EU関税対応策でプラグインハイブリッ

ビジネス

不振の米小売決算、消費意欲後退を反映 米関税で

ワールド

イスラエル、シリア大統領官邸付近を攻撃 少数派保護
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story