コラム

文大統領の「3.1演説」の注目点と日韓関係における東京オリンピックの重要性

2021年03月04日(木)13時41分

記念式で韓国の国家である「愛国歌」を歌う場面では、東京オリンピックに参加する予定の韓国代表たちが1人ずつ登場し、「愛国歌」を歌う姿が中継された。東京オリンピックへの参加協力や大会の成功を願う趣旨ではないかと考えられる。

3番目は2019年と2020年の演説に続き、慰安婦や元徴用工に関する直接的な言及を避けて、今後日本政府と対話をしながら日韓関係を改善したいという意思が表明された点である。文大統領は「韓国政府はいつでも日本政府と向かい合って話を交わす準備ができています。易地思之(立場を変えて考えること)の姿勢で頭を突き合わせると過去の問題でも、いくらでも賢明に解決できると確信します。日韓両国がコロナで打撃を受けた経済を回復し、より強固な協力でポストコロナ時代の新しい秩序を一緒に作っていくことを願います」と述べながら、対立よりは日韓協力の必要性を強調した。

4番目はK防疫の成果を直接・間接的にアピールしながら、今後もK防疫を中心にコロナ対策を推進していくという韓国政府の意志を示した点である。支持率下落の原因にもなったワクチン確保に問題がないことを強調しながら、国民に対してはワクチン不信を助長するフェイクニュースを警戒することやワクチン接種に積極的に協力してほしいことを呼びかけた。

東京オリンピックを意識

最後は、日米韓の協力を強調した点である。文大統領は演説で「(日韓)両国の協力は両国双方にとって役に立ち、北東アジアの安定と共同繁栄に役立ち、韓・米・日の3か国協力にも役立つはずです」と述べた。このように日米韓の協力を強調したのは、今後北朝鮮との対話を再開するためにはアメリカや日本の協力が欠かせないと判断したためであるだろう。

今回の「3.1独立運動」の記念式や文大統領の演説は東京オリンピックを強く意識したと考えられる。つまり、韓国政府は東京オリンピックを通じて日本との関係を改善すると共に、北朝鮮との対話を再開したいという考えを持っているということだろう。

IOCのトーマス・バッハ会長は、1月27日に行われた理事会で予定通り2021年7月23日に東京オリンピックを開幕すると改めて強調しており、日本政府も開催に積極的な立場を見せている。東京オリンピックの聖火リレーが予定通り3月25日に実施されると、その後日韓関係は大きく改善される可能性がある。東京オリンピックが日韓関係の改善に大きな役割をすることを期待するところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、欧州で5500億円融資ファンド 米ベ

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story