コラム

文在寅大統領の対日姿勢が柔軟路線に変わった理由

2021年01月24日(日)20時24分

文大統領は今回の発言により既存の支持層が政権離れすることを予想しなかったのだろうか? 文大統領の支持率は、価格高騰が続く不動産問題、新型コロナウイルスの感染者増加、ワクチン確保の遅れの問題など、あらゆる悪材料によって、昨年11月下旬から下降局面に入り、12月1週目には40%を割込み、今年の1月1週目には「35.5%」と就任後最も低くなった。にもかかわらず、既存の支持層を失うような発言をしたのはなぜだろうか? マスコミの報道や専門家の意見などを参考にその理由を考えてみた。主な内容は次の通りである。

1)アメリカのバイデン新政権を意識

文大統領の新年記者会見はジョー・バイデン氏の大統領就任式が行われた1月20日の2日前に開かれており、今回の発言はアメリカのバイデン新政権を意識した発言だった可能性がある。つまり、バイデン政権はトランプ政権と比べて、日韓関係に積極的に関与するとともに日米韓の協力を重視すると予想されるので、韓国側が日韓関係を改善するために努力していることをアピールするための発言だったと推測できる。

2)南北関係改善のためのカード

文大統領が就任当時から最も重要視しているのが「南北関係」である。しかしながら、最近の南北関係はいわゆる「膠着状態」である。従って、韓国政府は2018年平昌オリンピックと同様に、今年の7月に予定されている東京オリンピックを南北関係を改善させるきっかけとして利用することを望んでいる。

さらに北朝鮮を東京五輪に参加させて、日米南北の4者会談や米朝会談などを韓国主導で成立させ、アメリカや北朝鮮の信頼を得たく、そのためには日本の協力が必要なので、従来の対日強硬姿勢を修正したのではないかと考えられる。

3)日韓関係を改善し、経済の不確実性を最小化する

新型コロナウイルスの長期化は韓国経済を大きく後退させた。若者の失業率は上昇し、多くの自営業者や中小企業の経営状況は悪化した。韓国政府が発表する失業者に、潜在的な失業者や不完全就業者(週18時間未満しか働いていない者)を加えた15~29歳の12月の「拡張失業率」は26.0%に達している。

新型コロナウイルスが発生する前の米中貿易摩擦、日本からの輸出規制までさかのぼると、韓国経済はここ2~3年間、外部要因や新型コロナウイルスなどの影響で大きな打撃を受けている。

今後韓国経済を回復させるためには、韓国経済にマイナス影響を与える要素を取り除く必要があり、そのためには日本との関係改善等が不可欠だと判断した可能性が高い。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、4月は横ばい サービス上昇でコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story