コラム

文在寅大統領の対日姿勢が柔軟路線に変わった理由

2021年01月24日(日)20時24分

いつもと感じが違った文在寅(1月18日、新年の記者会見で) Jeon Heon-Kyun/REUTERS

<文大統領は新年の記者会見で先の慰安婦判決が2015年の日韓合意に反するものであることを認めるなど、菅政権発足の前後から日本と積極的に対話しようとしているように見える>

*このコラムの内容は筆者個人の見解で、所属する組織とは関係ありません。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は1月18日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)春秋館で開かれた新年記者会見で、「日韓の間には解決すべき懸案がある。輸出規制問題があり、徴用工訴訟問題もある。このような問題を外交的に解決するために両国は多様なチャネルで対話をしている。日韓が懸案について外交的努力をしている最中に慰安婦判決が加わり、率直に言って少し困惑していることが事実である」と述べた。

韓国のソウル中央地方裁判所は1月8日、元従軍慰安婦の女性12人(故人を含む)が日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、原告の請求を認め、1人当たり1億ウォン(約950万円)の賠償を命じた。日本政府は、慰安婦問題は日韓両政府の合意で既に「解決済み」であり、主権国家が他の国家の裁判権に服さないという「主権免除」の原則を重視し、控訴もしなかった。

文大統領はこう続けた。「慰安婦判決の場合は、2015年に日韓政府の間で慰安府問題に対する合意があった。韓国政府はその合意が両国政府間の公式的合意であった事実を認める。このような背景の上で今回(2021年1月8日)判決が出た。被害者のおばあさんらが同意できる解決策を見いだせるよう、日本と協議していく」と立場を表明した。これまでの強硬な発言とは対照的である。

「現金化」望ましくない


さらに、徴用工訴訟問題については、裁判所が韓国内にある日本企業の資産を差し押さえ、売却して原告らの賠償に充てる「現金化」について、「強制執行の方式で現金化されることや判決が実現されることは日韓両国間の関係に望ましくないと思う」と話した。

文大統領の発言に対して韓国の市民団体「正義記憶連帯」(正義連)は、「当惑し、失望した」と批判した。正義連の李娜栄(イ・ナヨン)理事長は、ソウル鍾路区の旧在韓日本大使館前で開かれた第1475回定期水曜集会で次のように批判した。

「文大統領は新年記者会見で2015年の日韓合意を両国政府間の公式的な合意だったと認めた。(中略)人権弁護士であった文大統領が、被害者らが30年にわたって戦って成し遂げた判決の国際人権史的意味を知らないはずがない。(中略)文大統領は就任初期から2015年の日韓合意が、国民が排除された政治的合意で、この合意で慰安婦問題が解決されないと強調していた。にもかかわらず、最高裁判所と憲法裁判所ですでに数回確認した問題を、行政府の首長が覆すことはあり得ないことだと考える」

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、ガザ病院攻撃に遺憾の意 「目標はハ

ワールド

中国は200%の関税に直面、磁石供給しなければ ト

ワールド

金正恩氏と年内に会談したい=トランプ氏

ビジネス

米7月新築住宅販売0.6%減65.2万戸、住宅市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story