コラム

いま株価が上昇するのは「当たり前」...株高の「現実」が理解できず、状況を楽観する人々の危険な勘違いとは?

2023年06月06日(火)19時25分
日本の株式市場イメージ

KLINGSUP/SHUTTERSTOCK

<日経平均がバブル期以来の高値水準に沸く株式市場だが、この状況を理解するには「インフレ時代の新常識」を認識する必要がある>

日経平均株価が3万円を突破するなど、日本株が久しぶりに活況を呈している。今回の株価上昇は、コロナからの景気回復期待が背景となっており、本格的な上昇相場がスタートするとポジティブに捉える人がいる一方、株価上昇は一時的なものであり、慎重なスタンスが必要とみる関係者も多い。

今後の株価については、企業決算はもちろんのこと、為替や金利動向に大きく左右されるので、世界情勢が不透明な中ではなかなか予想しづらい。だが確実に言えるのは、日本経済は望むと望まざるとにかかわらず恒常的なインフレ体質に転換しつつあり、株価についても従来とは違った常識が求められるという現実である。

通常、株価というのは期待先行で上昇し、企業の業績がその期待に追い付かなかった場合、理論上、株価は元の水準に戻ることになる。しかしインフレが進んでいるときには、そうならないことがあるので注意が必要だ。

例えば現時点で100円の値段が付いている銘柄があったとしよう。もし会社の業績が翌年も同じであれば、理論的な株価は100円のままということになり、株価は上下しない。

インフレで株価が上がっても実質的な価値は変わらない

ところが、市場が恒常的なインフレ状態になっており、翌年に消費者物価が1.2倍になった場合、企業の業績に変化がないのであれば、株価は物価に合わせて1.2倍に上昇していなければおかしい。

つまり20%物価が上がった経済圏では、理論的な株価も20%上がって120円となる。この株価上昇は物価に合わせて株価も上がったにすぎず、当該企業の実質的な価値は何も変わっていない。

ところが、こうした状態になると、一部の投資家は保有する銘柄の株価が上がったと勘違いしてしまう。つまりインフレ時における株価上昇については、本質的な意味での上昇ではない可能性があるという点に気付く必要がある。

このケースであれば、損失にはなっていないのでまだいいほうだが、問題は物価が上昇しているときに株価が横ばいで推移したときである。物価が20%上昇したにもかかわらず、株価が100円のままだった場合、それは事実上、株価が下落したことと同じになる。物価が20%上昇していなければ、当該企業の株価は100円ではなく80円程度に下落していた可能性が高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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