コラム

会社への不満、キャリアへの絶望...「最低限の仕事しか」しない社員が急増した理由

2022年09月21日(水)17時21分
アメリカの求人

JOHN SMITHーVIEWPRESS/GETTY IMAGES

<仕事に意欲を持てず、あえて最低限の仕事しかこなそうとしない「静かな退職者」という日米に共通する問題の根は深い>

アメリカの労働者の約半数が、会社への帰属意識を低下させているという調査結果が話題になっている。コロナ危機をきっかけに仕事に対する価値観が変わった可能性が指摘されているが、原因はそれだけにとどまらない。

米ギャラップ社が、約1万5000人のアメリカ人労働者を対象に調査を行ったところ、仕事に熱意を持つ人の割合は32%と前回調査より低下し、7年ぶりの低水準となった。一方、会社に不満を持つ人の割合は高まっており、約半数が仕事に対して意欲を持てず、最低限の仕事しかこなしていない状態だという。同社ではこうした労働者を「静かな退職者」と呼んでいる。

とりわけ35歳以下の若手社員における帰属意識の落ち込みが顕著となっており、世代間ギャップが企業活動に大きな影響を及ぼしている。同社ではコロナ危機によって労働に対する価値観が変化した可能性について指摘しているが、原因はもっと複雑で構造的である可能性が高い。

1990年代以降、IT化やグローバリゼーションが進展し、各国は目覚ましい成長を実現した。しかし、リーマン・ショック以降、生産性の伸びが鈍化しており、成長の限界が指摘され始めている。加えて、富めるものがさらに多くの富を獲得するなど格差が拡大しており、一向に解消する気配が見えない。

こうした理由から多くの労働者が自身のキャリア構築に限界を感じており、特に労働条件の悪い職場での人材確保が困難になっている。

労働者による社会への抵抗運動か

アメリカではコロナからの景気回復によって各社が積極的に求人を行っているが、全く人が集まらず、労働参加率は低いまま推移している。時給は跳ね上がる一方であり、インフレに拍車が掛かっている状況だ。これは今までに見られなかった現象であり、ギャラップの調査結果と重ね合わせると、労働者による社会への抵抗運動にも思えてくる。

こうした変化が一時的なものではなく、成長の限界に起因しているのだとすると事態は厄介であり、根本的な解決策は2つしかない。

1つは80年代のアメリカが行ったような経済の再構築である。同国は70年代、成長の鈍化と高インフレ(スタグフレーション)に悩まされ、最終的に政策金利を20%まで引き上げるという荒療治で事態を鎮静させた。80年代に入りレーガン政権は大胆な競争政策を実施。多大な犠牲を払ってアメリカ経済を成長軌道に戻したが、この過程において多くの企業が没落し、労働者も転職や学び直しを余儀なくされた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド中銀、予想通り政策金利据え置き スタンス「中

ビジネス

ソジェン、収益目標引き上げ 第4四半期純利益は予想

ビジネス

インドネシア株・通貨急落、ムーディーズ格付け見通し

ビジネス

かなり慎重にデータ見ていく、時期は予断持たず=利上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 2
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「反トランプの顔ぶれ」にMAGAが怒り心頭...グリーン…
  • 7
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story